1.書類至上主義の幻想性の理解
「文書や記録(総称して書類ということもある)が精密で、かつ、その量が多いほど、システムが高度で品質向上になる。」という考えが、過剰書類を作成する動機の根底にある。しかし、これは幻想である。品質は設計を含めたプロセス(工程)で作られるのである。
逆に、書類が多いと、コストアップだけでなく、データ改ざんなど、扱う人のモラル低下を起こし、品質が書類管理に乗っ取られる。
すでに1995年、権威あるイギリスの審査員養成機関IQA発行の「小企業と品質システム」の解説書に、「過度の詳細の文書化は、かならずしも管理の強化にならない。むしろ、できる限りさけるべきである。これは特に中小企業では重要である。適切な訓練と関連する記録は、詳細な手順書を不要とする。」とある。また、名著「中小企業のためのISO9000:ISO/TC176からの助言」(1996刊)では、「作業者がフォークリフトを運転できないならば、解決策は指導書を書くことでなく、訓練することである。」、「この規格で許容されている柔軟性の長所を生かし、最も簡素で、最も実用的な文書管理の方法を適用できることにより、官僚制とムダなコストを避けることができる。」などと助言している。
2.無駄な書類排除の10大原則
多くのコンサルタントは、「無駄な書類作成は避けよう。」と言って指導に入るが、結果的に過剰な書類を作る。原因は、具体的な「処方箋」がないからである。私はISO9001:1994のときから多くの企業の無駄な文書の「症状」を調べ、その「症状」の共通性から、多くの共通の「処方」を開発できた。ここでは、基礎的な実務10原則にしぼって紹介したい。なお、これら「処方」の背景には生産管理理論や経営工学(Industrial
Engineering: IE)の体系理論、ISO本部の指針、転記の無駄とミス防止、現場に役立つ真の品質情報の利用という一貫した観点があり、この理解がないと正しい応用ができないことに留意されたい。
(1)第1原則:管理的な文書と技術的な文書を分離すること
戦後、JISマークの工場審査では、書類作成要求があり、管理標準と技術標準とに区分していた。後に「TQC用語辞典」(日本規格協会・1985発行)に、この2つの用語が定義されている。これはISO9001の文書体系を考えるときに非常に有用である。
例えば、検査手順書が、1.目的、2.適用範囲、3.用語定義と書き出す場合が多いが、これは管理標準との混同で、冗長な表現である。私の検査手順書は技術的内容だけであり、素っ気無い(図表1参照)。不合格品の報告手順は、管理手順の問題だから、技術標準である検査手順書には書かない。組織名も一切書かない。箇条書きが原則である。逆に、管理標準には、技術的なことは一切書かない。ISO100013:1995「品質マニュアル作成の指針」にも「品質マニュアルには技術的内容は含まない。」と同様の区分の説明がある。
上記のような体系的な知識をふまえ、きちんとした書類システム体系を図表2に示す。
このように、書類の役割を明確にすることが、効率的な文書システムの根底に必要である。
図表 1
検査区分
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最終検査
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検査対象品 |
完成品 |
| 検査手順 |
1.検査数 |
n=3(あるいは抜取数表) |
2.検査項目 |
検査図の〇で囲んだ寸法項目 |
3.測定方法 |
測定器選択基準表による。 |
4.合否判定基準 |
図面公差内のこと。 |
5.検査記録 |
検査図に記入。 |
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図表 2

(2)第2原則:管理規定の内容をマニュアルに吸収し、ゼロとすること
多くの中小企業は、20くらいの管理規定を作る。このために、規定間の整合性のための改訂管理、配付管理の文書作業に追われる。私は、300人くらいまでの企業には、管理規定ゼロ、マニュアル1冊でシステムを作り、すでに約百社の中小企業が認証を得ている(図表3参照)。日本では画期的なことなので、最初、あわてた書類過剰要求の審査機関もあった。
2001年に発行された本部のガイドラインであるISO/TR10013「品質マネジメントシステムの文書類に関する指針」では、品質マニュアルの項目で「小規模組織の場合、ISO9001で
要求する全ての手順書を始めとする品質マネジメントシステム全体を一冊のマニュアル
(single manual)に記載するほうが適切なこともあるだろう。」と明確に説明があり、私の方式は明確に国際的なお墨付きが得られたことになる。
(3)第3原則:品質マニュアルの頁ごとの改訂履歴なし
図表4のようにマニュアル各頁の上の欄が複雑で管理も複雑になっている例が多い。私は次の図表5のようにスッキリさせている。通し頁はとらない。改訂で頁が増えたら、後の頁数が全部変更になるからである。無駄である。文書番号はないからこの欄も不要である。
図表 3
図表 4
文書番号 |
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品質マニュアル |
制定日 |
年 月 日 |
改訂日 |
年 月 日 |
版番号 |
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頁 |
本 文 |
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(4)第4原則:図面番号以外の文書番号なし
中小企業でも、ISO9000取得のため、「品質目標計画書」「マネジメントレビュー記録書」「取引先リスト」など、百近い文書が発生する。これらの書類に文書番号をつけ、台帳をつける。しかし、「取引先リスト」と言えば、すぐに分かるのに、わざわざ、Q40602などと呼ぶ必要がどこにあるのだろうか。IT化が進んで、漢字識別が簡単にできる時代である。桁ごとに集計する必要もない。だから、無駄なコストである。もちろん、文書番号制度を実行せよというshall要求はない。しかし、中小企業まで、文書番号制度という画一化したシステムを盲目的に導入し、苦しんでいるのは不思議である。
(5)第5原則:配付台帳なし
名著「中小企業のためのISO9000:ISO/TC176からの助言」では「中小企業は、事業所も1ヶ所であることが多い。文書のコピーは最小限にすべきである。このような場合、一つの文書を皆で使うことで管理は簡単になる。もし、すべての人が集中管理された一つの文書を簡単に使うことができるなら、複雑な管理が不要となり、変更を管理する方法は簡単になろう。」と助言している。
この助言は、配付管理の無駄とその改善のヒントを提供している。文書をコピーすると配付管理が発生し、配付先ごとに図表6のような台帳が発生する。文書数が百ぐらいあると、文書名の欄が百行となる。配付を受けた現場は大変である。もちろん、こんな無駄な一覧表作成のISO9001:2000要求(shall)にはない。
図表 6
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文書名 |
初版年月日 |
A版年月日 |
B版年月日 |
C版年月日 |
D版年月日 |
@ |
02・6・1 |
02.9.30 |
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| A
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02・6・1 |
02.7.20 |
02.8.30 |
02.920 |
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B
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02・6・1 |
02.9.1 |
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C |
02・6・1 |
02.8.25 |
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94年版で認証を書類過剰型で取得したある中小企業は、同じ事務所のフロア−にいる管理者6名に、品質マニュアルや管理規定を6部コピーし、配付し、その配付台帳を作っていた。私は、2000年版の移行のときに、管理規定をなくし、マニュアル1冊にするとともに、同じフロア−の管理者は共同で1冊を見ることにして、配付台帳をやめた。
ある中小企業で小さな分工場があった。ここには、マニュアルのコピーが必要であった。しかし、そのために、配付台帳を作りたくない。そこで、知恵を出した。すなわち、マニュアルの表紙に、図表7のような欄を作り、コピーを分工場に配付したら、受領印欄に分工場長が捺印し、表紙だけファックスで送る。これを本社のほうで専用ファイルに綴じて管理し、配付台帳は作らなかった。2000年版に移行のとき、IT化が進み、さらに改善し、分工場で読取専用の端末閲覧とし、コピーもやめ、この欄の必要もなくなった。
(6)第6原則:製造用技術手順書の品番別と品番共通技術手順書の分離
仕事のプロセスは、図表8のような格子構造でモデル化できる。縦軸方向に製品が逐次、加工され、完成する。横軸は、機械であれば、次から次へと違った製品を加工していく活動を示す。プレスであると、製品別に型は違うが、「型をセットし、加工し、加工完了後、型をはずす。」のように、横軸の作業は繰返しである。その部分を製品別に繰返し書くと過剰な文書となる。そこで、横軸文書(製品共通)と縦軸文書(製品別)を分離する。
よく、作業標準書を作業者の前に掲示している例があるが、作業者は見ていない。横軸文
図表 8
書だからである。これはすでに、30年位前にトヨタは気がついていて、当時の社内テキストには、「例えば、作業標準について考えると、作業者は数十回乃至数百回繰返すとその作業に習熟するので不要となり、得てして机の引出しにしまわれることが多い。そうすると監督者は大勢の作業者を相手にそれが標準作業通り行われているかを知る方法がなく、現場管理は杜撰となる。したがって、管理の徹底という面から考えると標準類は作業者のためというより、むしろ監督者のためにあると考えねばいけない。」とある。
しかし、自動車の組立てラインでは1台1台、仕様が違うので、フロントガラスに垂れ下がっている文書を見て作業をする。これは縦軸文書で作業者のためにある文書である。
(7)第7原則:図面から転記しないで図面を使うこと・データベース化すること
製造業では、品番別情報は図面が持っている。図表1のように、完成品が1000種類あろうと、横軸文書の完成品の検査手順書は1枚で済む。後は、1乃至2枚の「測定器選択基準表」と検査項目に丸をつけた縦軸文書の1000枚の「検査図面」である。図面はISO9001:2000以前から使っているから、ISO9001:2000のための増加とはならない。品番別情報を持つ図面の有効利用がポイントで、そうしないと図表9のようなISO9001:2000のためと称して図面転記の無駄な1000枚の検査成績表の作成となる。手間をかけて転記ミスや改訂ミスの原因になるだけである。
ある組立て型の中小企業では、部品点数が1万点あり、当然、図面はその点数分あった。ISO9001のため、受入検査成績表を上記の図表9の方式で、長い間かけて1万枚作った。私は、それを見て図面があるからこれらはすべて不要であるとコメントしたが、折角作ったからといって改善しなかった。維持コストで自滅し、現在まで認証を受ける体制にない。
図表 9
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(8)原則8:改訂履歴は文書中に示すこと
図表10のように、「取引先リスト」の例でいうと、新取引先のD社が追加になると、リストに1行追加になる。それとともに、別の改訂履歴表に履歴が記録される。この方式だと、帳票の種類が50あれば、同じ50枚の改定履歴表が添付される。転記とダブった捺印の連続である。図表10の例で明らかなように、取引先リストの承認日付が改訂履歴となっている。だから、改訂履歴表は無駄で廃止でき、紙を半減できる。
図表 10
取引先リスト
取先名 |
承認 |
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A社 |
2/10K |
B社 |
2/10K |
C社 |
3/1K |
D社 |
3/20K |
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改訂履歴表
版 |
改定日 |
内容 |
承認 |
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1
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2/10 |
A,B社登録 |
K |
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2
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3/1
|
C社登録 |
K |
|
3 |
3/20 |
D社登録 |
K |
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(9)原則9:品番別QC工程表なし
品番別QC工程表の問題点は、現場では見ていないことである。これはスタッフの整理用である。品質情報は生産管理で発行する図面や作業指示書のような作業者が見る文書で動いている。だから、QC工程表の改訂が遅れても現場は問題ない。また、QC工程表のデータは基本文書から転記するから膨大な転記となる。もちろん、shall要求はない。この数字の転記の無駄や転記ミスをやめるため、元の文書名だけを記入するアメリカ方式が効率的である。かつ、品番別でなく製品群別にすれば、製品が1000点あろうとも、せいぜい、数枚で終わる。特定顧客が品番別QC工程表を求めるときは、外部文書として扱う。
(10)原則10:品質保証体系図なし
通常、システム設計書は、明確な設計意図を示すために、まず、簡単な全体概要図、ブロック図、最後にブロックごとの詳細図と分ける。ところが、品質保証体系図の問題点は、自己のシステムを設計したという意識がないせいか、ただ、書けばよいということから、いきなり、フラットな詳細図が登場してしまうことである。このためA2くらいの大きな紙に細かく書いてあるので頭が痛くなる。かつ、フロー線がループするので、業務の基本的な流れが把握しにくい。書いた人だけの自己満足で終わり、誰も見ないという結果となる。
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