●ISO9001:2000による品質の向上
ISO9001:2000の認証を得ても、製品に表示をつけることは禁止されている。製品の品質保証をしていないからである。三菱の車もリコール自体が問題でなく、これを隠したため問題を拡大したマネジメントシステムが問題になっているのである。しかし、顧客は品質マネジメントシステムを買うのでなく、良い製品を買うのである。この分離の理解が難しい点である。継続的な改善もマネジメントシステムに限定されている。ISO9001:2000の序文では、マネジメントシステムと製品の技術的な要求とは「補完」関係にあると明記している。すなわち、技術的な製品実現のプロセスを補完する、言い換えれば、支援するものとして関係付けている。すなわち、間接的に品質は向上する関係にあるはずである。
しかし、過去の例を見ると、書類至上主義でISO9001:2000システムを設計し、審査機関も「付加価値審査」と言って、ISO9001:2000要求以外の助言を書類至上主義で行うと、品質低下や記録のごまかし、従業員のモラル低下などを起こしやすい。これが品質向上のブレーキになることがある。書類至上主義とは次のような基本発想をいう。
@書類(手順書、記録)の詳細化が品質向上に効果的に貢献。A検査が品質保証の最高の方法。B無駄排除というコスト感覚の軽視。C現場や外注は書類作成が下手で低レベル。
●書類至上主義による問題の例
ある中小企業で納入先(ISO9001取得)クレームが出ると、納入先の品質保証責任者から「『QC工程表』を持って来い。」と言われ、何回も訪問しいろいろ嫌味を言われ添削を受けた。私が調べたら冶工具設計の問題であったが、その技術的な議論はどこにもなかった。
あるプラスチック成形品製造企業では、顧客(ISO9001取得)の品質保証部門担当から作業手順をデジカメにとり作業場に掲示するように指導された。一方、私は初品の測定データが使われていないことを指摘した。製造課長は成形機に刻々表示される機械の条件値の標準偏差値と製品データとの関連を把握し、操作条件を変えるようになった。不良は大きく減少した。しかし、顧客の品質保証部門担当は不良減少の原因は、デジカメ写真の現場掲示であると主張した。写真は作業者が体得している情報なので誰も見ていなかった。外注側は機械操作ノウハウがもれるので反論せず、事実は黙していた。
書類至上主義は事故原因ともなる。昨年11月の朝日新聞では、三菱重工の建造中の豪華客船の火災事故は「『マニュアルの重装備』が原因であるので、同現場では作業手順や安全管理に関するマニュアルをゼロから見直し、必要最低限に絞り込む。」と報じていた。
多くのISO9001:2000取得工場では、機械の始業点検用のチェックシートに「異音なし」のチェック項目があり、きちんとチェックされているが、作業者に異音の内容を聞くと答えられない。形式化が進むと生きた技術は現場から消え、ウソの記録がうまくなりやすい。
製品の品質は設計を含むプロセスの技術レベルで決まる。戦後の日本の製造業における画期的な品質向上には「品質は工程で作られる」が徹底され、約10万人といわれる現場の「メタルカラー」を中心とする技術力が背景にあった。この原点を忘れてはならない。日産のアメリカでの不良多発に対して、ゴーン社長は、200人を超える技術陣のアメリカへの派遣を決めた。品質保証担当者の大量派遣ではなかった。的確なマネジメント決断である。
|