2004年8月2日発行「あいち産業情報」
トヨタ生産方式とISO9000との関係
西沢総合研究所 所長 西沢隆二

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1.トヨタ生産方式とISO9000との対峙

トヨタ生産方式とISO9000との対峙の歴史は長い。それはイギリスから始まる。

(1)イギリスでの先行発生

ISO9000の初版(87年)は、79年に発行されたイギリス規格BS5750(注1)がほとんどそのまま使われた。その意味でイギリスはISO9000先進国である。現在、ISO9000を認証している事業体は日本の3倍近く、すでに飽和状態である。したがって、今、日本で問題になっているISO9000に関するいろいろなトラブルは、イギリスでは先行して発生してきた。

イギリス政府のバックアップによるISO9000の積極的な導入にかかわらず、イギリス産業の競争力向上に大きな効果はなかった。一方、70年代からトヨタ生産方式などの日本方式が日本製品の品質向上に効果的なことが世界的に証明されつつあった。80年代からイギリスでも企業独自で自己防衛的に導入をはじめた。すなわち、トヨタ生産方式とISO9000の前身のBS5750の異質なシステムの対峙は、すでにイギリスの企業内で80年代に始まっていた。

(2)セドン氏の問題提起

そのイギリスでトヨタ生産方式とISO9000との対峙をはじめてオープンにしたのが、イギリスのセドン氏の著書「品質を追求して」(和訳なし:1997年発刊)である。ここでは、イギリスのISO9000は品質向上の実績証明がないが、日本のトヨタ生産方式、デミング(注2)の考え、田口メソッド(注3)などは、世界的な実績証明があると述べ、その基本的な違いを指摘している。また、その実例として、イギリスの3社のなまなましい実情をリポートし、その中で、氏はISO9000を成功裡に取得したという企業ですら、それに安住するためか、トヨタ生産方式やデミングの考えのより効果的な方法から目をそらす弊害を生むとしている。

私は、2000年の春に、セドン氏のアレンジでイギリスのISO9000取得の中小企業6社を視察した。驚くべきことに、この6社のうち、4社がすでにトヨタ生産方式を導入していた。

 


(3)イギリスで観察したISO9000とトヨタ生産方式を並行して導入した実例

ある30人くらいの板金業者は80年代のBS5750時代から過剰な書類で苦しんでいた。社長は90年にトヨタに勉強に行き、帰ってから、無駄な書類を徹底的に減らした。管理規定はゼロ、マニュアルは配付なしの端末閲覧とした。作業標準書はなくビデオであり、現場にある文書は顧客から来た図面だけであった。最初、出荷検査員は独立しており、作業はしてはならないというシステムであったが、自主検査に切り替え、独立検査員をなくした。

そのようにしてから品質は向上した。

別なある田舎の工業団地の一角にある20人くらいの計測器のメーカーは、工程を1台流しのセル方式にし、部品調達にかんばん方式を使っていた。現場の掲示板には5Sがローマ字で書いてあり、不良の傾向グラフが掲示されていた。

この社長は、品質保証のマネージャーを3回も解雇した。理由は、トラブルが出ても現場にとばないで、オフィスで書類つくりだけをしていたからであった。私が、それは日本では「三現主義」(注4)といっていると言ったら、早速、それを英訳し、掲示板に貼った。彼は、ISO9000審査員がトヨタ生産方式を知らないので、審査との議論は真の品質向上については不毛であると批判していた。

この私の6社訪問の感想を含め、セドン氏はISO9000の2000年改訂に対応して、トヨタ生産方式と比較して「こんなISO9000はいらない」(西沢訳:近代文芸社2001年春発売)を発表した。

日経ビジネスは、99年の10月25日号から3週連続で「こんなISOはいらない」という特集を組んだが、ここで書類過剰の例がいくつかあげられ、トヨタはISO9000に否定的であるとの記事があった。セドン氏は、これをすでに数年前から予見したことになる。

(4)トヨタ生産方式の世界への展開

2000年9月16日の朝日新聞ウィークエンド経済で、「日本式の世界への展開」という表題で産業研究所国際経済研究センターの松本厚治所長は、調査によれば、トヨタ生産方式などの日本式の生産管理方式は、80年代から世界に静かに定着しつつあり、現在も進んでいるとして、システムを世界的に斉一にすることが必要だというなら、日本が世界に合わせるだけでなく、世界が日本に合わせてもよいのであるとしている。

2.トヨタ生産方式とISO9000との融合

上記のように、トヨタ生産方式とISO9000は本質的に対峙する面が多い。しかし、ISO9000の認証取得を強制された場合、その弊害をできるだけ除去するには、トヨタ生産方式やデミングの考えを取り入れながら、システム設計をすることが効果的である。それには私の経験から下記の確立した考えが必要である。

(1)まず、書類至上主義から脱出すること

今、ISO9000で洗脳された一部の品質保証部の担当者には、次の書類至上主義発想がある。
●書類の詳細化が品質向上になる。
●検査による確認が品質保証の最高の方法である。
●品質を考えるとき、コストのことは考えなくてよい。
●実行のエビデンスとしては詳しい書類が最上である。
●現場や外注は書類作成が下手でレベルが低い。

 


この考えは、品質問題だけでなく、事故の原因にもなる。03年11月1日の朝日新聞で三菱重工の建造中の豪華客船の火災事故の原因として、「『マニュアルの重装備』が原因であるので、作業手順や安全管理に関するマニュアルをゼロから見直し、必要最低限に絞り込む」と報じていた。無駄な書類は無駄だけで終わらない。大きな事故に発展する。

よく見かけることであるが、ISO9000で使う機械の始業点検チェックシートにはどの工場でも「異音なし」というチェック項目があり、キチンとチェックマークされている。しかし、チェックしている作業者に「異音とはどういう音ですか?」と聞くと答えられない。キチンと書くという形式化、官僚化が進んでいて、生きた技術は現場から消える。だから、本当に「異音」が出ても対応能力はなく事故は拡大しやすい。

これに対し、トヨタ生産方式やデミングからの発想は次のように全く異なる。
●過度の書類の詳細化は、真の品質から目をそらし、モラル低下など弊害が多い。
●検査よりも工程の安定化、ばらつきの減少という技術手段の改善が品質保証の最高の方法である。
●品質達成にはそれを安定的に達成するプロセスを考える。よいプロセスを選択するときは必ずコスト判断を伴う。
●いくら記録書類を増加しても、エビデンス(客観的証拠)にならない。工程の安定化がエビデンスになる。記録書類の無駄な増加は、モラル低下から記録の改ざんを生む。
●現場や外注が効率よく動けるようにスタッフは支援すべきである。

すなわち、「品質は、設計を含めた『工程』で技術的に作られる」という日本の戦後に得た教訓を再度、自信を持って見直すことが、書類至上主義を避ける最上の対策である。特に、中小企業では無駄な書類は大きな経営的損失である。

 

(2)無駄を排除した実務システムを設計すること

実はISO9000規格は、許容幅が広く、具体的なマネジメントシステムの実務内容は企業の設計にまかされている。それにもかかわらず、画一的な無駄な書類過剰システムが横行している。その理由はシステム設計者がISO9000の要求に過剰反応し、TQC(注5)時代からの一部の書類至上主義をモデルにしたためであろう。

また、多くのISO9000コンサルタントは、無駄な書類を減らそうと宣伝するが、結果は過剰な書類となる。それは具体的な手法を持っていないからである。私はトヨタ生産方式などの無駄排除のコンサルタント経験に基づいて、十年ほど前から次に示す10の実務レベルの中小企業型ISO9000導入手法を開発し、10人前後から300人程度の指導企業はすべて無駄のないISO9000で認証を得てきている。

a.管理規定ゼロ・品質マニュアル1冊化
b.図面番号以外の文書番号ゼロ
c.配付台帳管理ゼロ
d.日本式QC工程表ゼロ
e.複雑で平面的な品質保証体系図ゼロ
f.品質マニュアルの頁ごとの変更履歴ゼロ
g.図面転記の無駄による検査基準書作成ゼロ
h.マネジメント手順文書と技術文書との体系的な完全分離
i.体得すべき技術情報と個々に確認すべき技術情報の体系的な完全分離
j.独立した改訂履歴表作成ゼロ

特に、iについては、作業標準書を作業者の前に掲示している例が多いが、その内容を体得している作業者は、これを見ない。実にナンセンスで形式的な無駄である。イギリスも同様である。30年ほど前からトヨタはこれに気がついていて、作業者の前に掲示する作業標準書は、作業者が見るためでなく、監督者が見るためであるとしている。

 


(3)ISO9000の改善要求事項へのトヨタ生産方式の積極的導入方法

ISO9000の中に具体的にトヨタ生産システムを積極的に取り入れるには、品質保証部門が書類至上主義の発想から完全に脱却し、かつ、設計を含む、第一線の技術改善に重点を置くべきである。そして、ISO9000では再発予防改善と初発予防改善を求めているので、ここにトヨタ生産方式の「あんどん」(注6)、「ポカよけ」(注7)、「三現主義」、「5W(why)追求」(注8)、「横展開・水平展開」(注9)という手法を積極的に取り込むべきである。

一口メモ

(注1)イギリス規格 BS(Britsch Standards)
イギリスの規格協会(Britisch Standards Insitition)の発行する産業全般の国家規格。

(注2)デミング
アメリカにおける品質管理の優れた専門家の一人であった故W.E.Deming博士(1900〜1993)は、わが国産業界の経営者、管理者、技術者、研究者に統計的品質管理の基本を平易に懇切に講義し、受講者に深い感銘を与えるとともに、 揺籃期にあったわが国の品質管理の成長に大きな影響を与えた。

(注3)田口メソッド
試作品は目標品質を満たすのに、それを量産すると目標品質を満足できなくなったり、工場出荷段階では目標品質を満たしているのに、顧客が使用すると市場クレームを起こしたりすることは良くある。いずれもバラツキに対する配慮が足りないためで、これらのバラツキに影響されない最適設計諸元や製造条件を求める手法。品質工学ともいう。

(注4)三現主義
現場で現物にさわり現実を見極め事実を把握すること。

(注5)TQC(トータルクオリティコントロール)
全社的品質管理。生産部門だけでなく、営業や事務なども含めた会社全体で製品の質を高めるよう努力すること。

(注6)あんどん
関係者へのアクションを促すための情報の窓で、現時点の異常場所を一目で判断できるようにした電光表示盤である。異常表示のほかに作業の指示(品質チェック、刃具交換、部品運搬など)、進度表示をするものもある。

(注7)ポカよけ
品質不良の発生や機械設備の故障発生を防止するために異常の発生を防止したり、異常が発生したらラインを止めるための安価で信頼性の高い道具や工夫

(注8) 5W(why)追求
5W1H(WHY,WHAT,WHERE,WHEN,WHO,HOW)が工程分析の現状調査の視点として用いられているが、それ以上に、WHYを1・2度で止めることなく、なぜ、なぜ………と5回なぜを問うことで真因を追求することをいう。

(注9) 横展開・水平展開
日本の自動車、電機業界での、ある不適合の発生からその類似プロセスや製品にその対策を拡大し、予防につなげるという考え。