| 私の母方の叔父は、私が小学校の頃、川崎にいてサラリーマンをしていたが、禅に興味があったようだ。太平洋戦争の終わり頃になって、田舎に疎開することになり、叔父は手持ちの家財をとりあえず、私の長野の家に送ったが、ほとんどが途中で空襲にあって燃えてしまった。不思議なことに1冊だけ、私の家に届いたのが沢木興道の「素人禅」である。 |
| 当時、私は小学4年生であった。この本は私の両親は興味がないので読まない。兄も興味がない。私はその本をなんとなく読んでいたら、いろいろな例話中心で、講談本のように面白いのである。この本はもう手元にないが未だに例話が記憶にある。 |
| 柳生十兵衛が若くして剣が強く、慢心した。これを沢庵禅師が問答を挑んで、こらしめる。禅師は「敵が前後にいて同時に斬りかかったら、どうするか。」と聞く。十兵衛は「先に前の敵を斬り、返す刀で後の敵を斬る。」と答える。「では、四方から一斉にかかったらどうするか。」とさらに禅師は聞く。十兵衛は「こうやって、四方の敵を斬る。」、禅師は「八方から一世に斬ったらどうするか。さらに十六方から」となる。ついに十兵衛は「斬って斬って斬りまくり、あい果てる。」となる。そこで、禅師は「なんだ、十六人しか斬れないのか。」となる。十兵衛は、ここで、はたと悟るというわけである。無心が大事だということである。 |
| 十兵衛は隻眼である。あるとき、父が突然、片目に石を当てた。すぐ十兵衛は、反対の目を手で覆ったという。そこで、父が誉めたという。通常、人は痛いほうの目を覆う。これで隻眼になったという。この話は本当かどうかは知らないが、禅の考えを知るには、興味がある。 |
| 猫の妙術というのは、ある剣道の道場で、ネズミが剣道の道具を食い散らすので、対策として天敵の猫を連れてくるという話である。最初の猫は、ネズミを追い込んだが、窮鼠猫をかむで、逆に逃げてしまう。2匹目の猫は、ネズミを捕獲してしまう。その夜、道場主が隣の部屋で話し声がするので、盗み聞きすると、3匹の猫が話していたという。最初の猫は、逃げ出した猫である。次の猫は「猫がネズミをとるのは当然だ。」と言う。ところが、3匹目の猫は「俺はネズミをとったことがない。なぜなら、俺が行くと自然とネズミが来なくなるからだ。」と言った。道場主は、そこで剣の極意を悟ったという話である。 |
| 禅の無心とか、先入観を持つな、現実を見つめ、実践的に対応せよという考えは、今に至るまで、考えの底にあり、コンサルティングでもそのようなアプローチをとっている。子供のときの影響はこわいものである。 |