有事法のこと(H14年9月4週号)

今年、国会でこの法律が議論されていたときのことである。
テレビを見ていたら、その解説のために短いドラマをやっていた。それはまず、ある家庭の夕食風景のシーンから始まる。夫婦と子供2人の4人の標準家族である。食堂で、楽しげに会話して食事している。

そこへ突然、ドアを開けて、自衛隊の装備をした兵士が2、3名入って来て、「緊急事態なので今からこの家を使う。」というのである。そこで、その家族は食事途中のものを持って部屋を出ようとすると、「食料も置いていけ。」となった。ここでドラマは終わりである。

冷静に見るとこの短いドラマは、コメディではないかと思うが、その後の解説を見ると、有事法案の解説のために真面目に作ったシーンであるようだ。

しかし、一体、自衛隊は、徘徊老人のように、あるいは、コソ泥のように、ゲリラのように、ふらついていて、任意の民家に押し入るのだろうか。
常識で考えれば、彼らは、作戦本部の作戦計画による出動命令で、制服に着替え、武器、弾薬や食料を用意し、使命と情報をもって、車両で駐屯地から出発するのである。その間に、市民には、緊急避難や自衛上の注意などが先行して流れるはずである。緊急事態なのに、ノンビリ夕食を食べている家庭は異常である。世間から隔絶している狂人の家か。それとも夫婦は、自分の家庭を守る知恵すらない脳天気な夫婦なのか。
突発的なテロのような場合は、自衛隊が来る前に、近所の建物は爆破されているかもしれない。自衛隊は救急車より機動性がないのである。
このドラマの脚本を書いた人がいかに想像力がないかを示している。

このドラマで、家庭に入り込んだ自衛隊の隊長が、楽しげに夕食している家族に向かって第一に言うことは「緊急事態で退避勧告を出したのに、なんでまだ、家にいるのか。家族の命が惜しくはないのか。われわれも守りきれないぞ。」である。

もっとも、そう言われても、日本には「余計なことだ。避難は個人の自由だ。」という人がいるということで、このドラマが作られたなら、すぐれたブラックユーモアである。