熱湯に手を入れたとき、手を慌てて引っ込める。瞬間的に熱いと「意識」する。このとき、脳の「熱い」という意識以前に、手に脳から「引っ込めろ」という指令が出ている。これは、超ベストセラー「バカの壁」の著者の養老孟司氏が、どこかで書いていた。
これを「適応性無自覚」と言うらしい。これを扱った「第1感」(光文社刊)という訳本が3月に発刊。アメリカでは52週連続ベストセラー。著者はジャーナリスト。副題に「『最初の2秒』の『なんとなく』が正しい」とあるが、原書の副題は「思考なき思考の力:
The power of thinking without thinking」である。もとの題名の「blink」は、「まばたき」の意味であるが、訳者が第1感と訳した。第六感や五感以前の無自覚な感覚であるという意味。
本の冒頭はアメリカの美術館が購入した古代ギリシャ彫刻が、さまざまな科学的検査では本物と鑑定されたが、何人かの美術専門家は見た瞬間、「最初の2秒」で「違う」と感じ、後に贋作と判明するというエピソードから始まり、「適応性無自覚」のほうが、科学的、論理的、分析的な判断より、迅速に正しい判断ができ、優れている実例をあげている。
エピソードが多く読みやすい。上記の古代ギリシャ彫刻の贋作判断、カップルの将来の離婚可能性の判断、最初に会う人の性格の判断、医療事故で訴えられやすい医者の判断、バードウオッチングでの鳥の種類の判断、テニスコーチのダブルフォールトを見抜く判断、ジョージ・ソロスの投資判断、プライミング実験、スピードデートによる好ましいパートナーの判断、仮想演習でベテラン軍人が指揮する軍とコンピュータとデータを駆使する近代的な軍との戦いでの戦闘判断(第1感のベテラン軍が勝つ)、即興芝居、消防手の消火現場での対応判断、救急患者の心臓発作の医者の判断、味の判断、市場調査による判断、警官の発砲判断、人の表情の判断、演奏力の判断など話題に事欠かない。
「適応性無自覚」の欠点は、適切な訓練がないと、逆に間違った判断をしやすい。ニセメール事件の永田議員は、西澤孝氏を直感的に信じてしまった。人物評価の「適応性無自覚」が間違った判断をした。その原因は人の評価訓練が少なかったためのもろさであろうか。
興味あるのは、自閉症の人の脳の動きである。正常な人は人の顔を見るとき、脳の紡錘回状という部分を使い、椅子を見るときこれとは別の下側頭回という能力の高くない部分を使う。自閉症の人は人の顔も椅子も下側頭回を使うので、高度の表現を持つ人の表情を読解する力が低い。論理的な知能は高いことが多いがーーー。
また、視覚情報を「言語」にすると瞬時の洞察力に使えない。マリリン・モンローの写真をみれば、瞬間で分かるが、それを「言語」にして、直感的に判断できるだろうか。
これと関連するが、新潮新書の「人は見た目が9割」という本がある。著者の竹内一郎氏は、劇作家、マンガ原作家であり、かつ、舞台の演出や俳優教育もやっているという。「非言語コミュニケーション」を扱っている。この心理学の分野でのアメリカの実験結果では、人が他人から受け取る情報の割合は、顔の表情が55%、声の質(高低、大きさ、テンポ)が38%、「話す言葉の内容」が7%であるという。コミュニケーションの「主役」は言葉でなく、「見た目が九割」であるという。コミュニケーションを効果的にするには、論理的な「言葉」よりも、それ以外の身体的な動的側面の配慮が重要であるということを述べている(このHPの基礎知識コーナーの「外国人向け作業標準:H18年2月2週号」参照)。
「人は見た目」も「適応性無自覚」が中心だから、上記の2冊の本には、底辺に人間の本質に対する共通した見方があるようだ。
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