「99.9%は仮説:思い込みで判断しないための考え方」(光文社新書)
(H18年5月1週号)

この本は、世の中に科学的な説明だというと、正しいように思っているが、それが仮説に過ぎないということをいろいろな事例で述べている。題名は、出版社がつけたのかもしれないが、著者は、99.9% どころか100%仮説だと言っているようだ。要するに著者が言いたいことは、客観的な説明として使われる「科学的」という言葉も「仮説」にすぎないのだから、ましてや、思い込みで考えるのは危険であると言っているようである。それは、「思い込みは危険である」という古くからの処世訓の徹底的な繰返しと言える。

冒頭に「飛行機がなぜ飛ぶのか?実はよくわかっていない」という例から始まる。翼により浮力が発生する説明論理に矛盾があるというのである。ところが、4月22日に教育テレビの子供向け番組で「飛行機はどうして空を飛べるの?」という番組があり、東大の航空工学の教授が説明していた方法はこの本と違う。この本の説明と同じなのは、流線型の翼の上面の空気の速度が速くなるということと、上面の速度が速いと圧が下がり浮くという2つの部分であるが、テレビ番組では、これを論理でなく、簡単な実験で説明していた。
翼の上面の空気の流れが速いことを実際の実験で示し、かつ、速いほうの圧が少ないことを示すために、2つのドライヤーを使い、吊るした平面の上面を風速の速いドライヤーで吹き、下面を遅いドライヤーで吹くと、吊るした平面は上昇する。
教授は、このような理屈は、人類が長い間の失敗、成功の試行錯誤の結果、得たものであると説明していた。これをこの本の著者の言うような「仮説」とすると、何時、覆るかも知れない「仮設」に基づいて飛行機は設計、製造され、空を飛んでいることになる。安心して乗っていられないことになる。訴訟社会のアメリカでは、「安全」を宣伝している航空会社やメーカーは、乗客から詐欺で訴えられるかもしれない。神が創った自然現象の説明と、飛行機のような人工物の説明とは異なるのではないか。
要するに、自然現象を説明する理屈が「仮説」なのである。飛行機は、自然現象でなく人工物である。それには「工学」がある。ノーベル経済学賞のサイモンに「人工の科学」という本があるが、彼は「自然科学」に対し、「人工物の科学」の違いをこの本で述べている。「自然科学は、自然現象を理解できるように説明することである」としている。その説明に「仮説」があるというのが、この「99.9%は仮説」で言っていることであろう。この本は、その点、「自然現象」と「人工物」のそれぞれの科学をゴッチャにしている。
「人は必ず死ぬ」という自然現象は「仮説」ではない。しかし、その不思議をDNAなどで納得できるように説明するのは科学である。「仮説」が生まれる。もっとも、宗教の説明は「絶対」であるが。

小泉首相はアメリカ牛肉の輸入再開で「科学的根拠」ということを言っていたが、BSE(狂牛病)は自然現象である。人が計画的に発生させたものではない。その現象の説明はいくら「科学的」だとしてもこの本の言うように「仮説」である。全頭検査でも安心は出来ない。その検査方法もある「仮説」に基づいているからだ。だから、「科学的」を徹底追求されると食品安全委員会の委員は半数が責任をとれないので辞職することになる。
一方、アメリカ側は、日本のBSEの輸入停止に対して、アメリカで輸入した日本車のブレーキ故障が発生したからといって日本車の輸入を全面禁止するのかと反論したが、自動車は人工物である。だから、原因と対策は明確である。ここにも、自然物人工物の混同がみられる。