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出張の多い仕事をしてから、もう、三十年を超える。いろいろなビジネスホテルを渡り歩くことになる。
もう、数年前であるが、栃木県のほうで、ある大通りに面した小さなビジネスホテルをよく利用した。東武電車の駅から歩いて、2、3分ぐらいのところにあり、便利だった。
3階建てで、1階はフロントと食堂、2階と3階が泊まり部屋になっていた。各階の中央に廊下があり、道路側の部屋と反対の住宅側の部屋に分かれていた。全部で35部屋くらいのものであろう。
道路側の部屋は車の音でうるさいので、私はいつも住宅側の真ん中の部屋を希望した。
中年の主人は、フロントもやり、朝の食堂では、配膳もした。気さくな温和な人であった。
なじみになったら、朝のコーヒーは別料金で100円なのに、「サービスです。」と言って食事が終わるのを見てから、持ってくるようになった。
あるとき、朝食に、アジの開きが出た。私は頭からぼりぼり食べたら、それを見ながら「私は、歯が悪いのか、そこまでは食べられないな。」と驚いていた。
そういう、ざっくばらんの、家庭的な雰囲気であった。
4年くらい前であろうか。ある朝、珍しく、この温厚なマスターが、怒って、ブツブツ言っていた。「長年、この仕事をしているが、とんでもない偉そうな客がいるものだ。」と言うのである。「頭に来た。ハンガーの数が足りないだの、タクシーが時間通り来たのに、それまで遅いと文句を言う。何様かという偉そうな言い方だ。会社の名前まで覚えた。」と言って、本来は、職業上、もらしてはならない会社名まで、ばらした。よほど、頭にきていたのだろう。顧客満足どころの話でなくなったらしい。
会社の名前を聞いて私のほうが驚いた。日本系の有名は審査機関であったからだ。その客はその機関の審査員である。新しい人種が生まれつつあることを、この主人は初めて知ったことになる。しかし、考えてみると、そういう新人類に金を払って対応する企業は大変だ。日本企業の活性化ということが不況で言われているが、これは大きなブレーキである。
もう、最近、3年くらい、このホテルには行っていないので、その後、この主人が新人類になれたかは知らない。
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