「バカの壁」 (H15年6月4週号)

このタイトルの新潮新書の本は、脳専門家の養老教授の著書で、ベストセラーとして新聞広告に大きく出た。そして、先週の日曜日のフジテレビで石原都知事と養老教授の対談があったので、これを見て、教授の言うポイントがほぼ理解できた。
最近、ようやく本屋に寄れる時間がとれたので買いに行ったら在庫切れで、注文になるという。2、3の本屋に寄ったが同じで、すごい売れ行きである。しかし、テレビで大体教授の考えは分かったし、後で今月号の「文芸春秋」にも教授の記事があったので、購入を諦めた。

私が、この本の題名からこの本に興味をもったのは、職業柄、いろいろな人と話し合い、協同して改善し、システムを作っていくが、基本的な点で、どうしようもないズレに気がつくことがあるからだ。ISO9000の問題でも「天動説」と「地動説」という言い方を考え出したが、これも「バカの壁」の1つである。

ある小さな会社で、ISO9000の準備で、勉強用のマニュアルには、管理外であることを示す「参考」の印を押して区別することにし、「参考印を作ってください。」と言って帰った。次の週にその会社を訪問したら「参考印」と「印」の文字まで、ハンコになっていた。ハンコを作り直すのは簡単だが、底に、越えがたい、深い壁があることに気がついた。これは、バカの壁というより、何か、どこかでツーカーないというべきであろう。この場合、こちらが当然、常識と思っていることは事前に説明が難しい。最悪の場合、会社の人が「参考印」を作れと言ったではないか、と私が前言をひるがえしたと誤解されかねない。

ISO9000の審査員で、初対面なのに会社の人をどなる審査員がいる。これはおそらく、企業側にいくら言っても自分の言う通り動かないので、イライラして怒鳴るのであろう。「天が動いている」のに、「地球が動いている」と反論されるから、バカの壁を感じて、相手をバカ呼ばわりしてどなるのであろう。バカ呼ばわりされた会社側も、審査員の言うことが理にかなっていないので、バカと思って従わない。両者のバカの壁は消えない。

ある中小の製本屋さんは、怒鳴った審査員に怒鳴り返し、かつ、10頁にわたるクレーム書を審査機関のマネジャーに出したが、このクレームで審査員は反省することはないだろうと言っていた。バカの壁を感じたのであろう。だから、私は、最初から、こういう人はできるだけ、避けたほうが利口だとしている。ISO9001:2000で、こういうバカの壁を崩すのは不可能に近いからだ。バカは死なないと分からないである。

しかし、この壁は消滅することがある。それは、改善が成功したときである。これについては、養老教授はこの本で述べていないようである。

ある自動機の工場で、作業者が材料セットミスをすると、そのたびに管理者はダブルチェックを増やした。私は、逆にチェックを増やさないほうが不良はへると言った。最初はお互いに壁があったが、私のやり方で不良が激減したら、その管理者のバカの壁は消滅した。

ある工場で、ネックマシーンがよく故障した。そこの課長と私は、故障の原因追求と対策を徹底的にやった。3ヶ月くらいで、故障停止ゼロとなった。そこの課長は「今まで、機械は止まるものだと思っていたが、止まらないものだと思うようになった。」と言った。バカの壁が崩壊したのである。