平成15年は、小津安二郎監督生誕百年になるので、国際的にも高く評価され、いろいろな催しが行われてきた。NHKの衛星放送でも、来年正月にまた、小津映画特集を放映予定。
小津映画の中で、「東京物語」は、何度見ても飽きない。昭和28年作だから白黒映画である。見終わって、小津映画の中で一番スケールの大きい人生を扱った気がする。
映画のストーリーは、尾道に住んでいる俳優・笠智衆(りゅう・ちしゅう)と東山千栄子が演ずる老夫婦が、東京で独立した子供たち(一人は開業医、一人は美容院)を見て回り、そしてまた尾道に帰るというものである。そして、帰りの途中で、東山千栄子の体の具合が悪くなり、途中、もう一人の子供がいる名古屋に寄る。尾道に帰ってから危篤になる。あわてて、子供たちは尾道にかけつけるが、翌日、死去する。68歳であるが、当時としては長生きのほうであろう。すぐに葬式をすませ、翌日、子供たちは東京に帰る。最後に、笠智衆が家の中で、一人、ぼんやり、団扇をあおいでいるシーンと瀬戸内海の俯瞰シーンで終わる。静かな夏の瀬戸内海である。
この話のなかに、美人女優・原節子が、この老夫婦の息子の嫁という役で登場する。息子は戦死し、すでに数年たっているが、この嫁はまだ、独身で、東京で仕事をしている。そして、老夫婦が東京に行ったとき、言わば赤の他人の原節子が一番、心にこもった接待をする。実の子達は、つれない対応である。
アクション映画と異なり、静かな日常シーンが展開され、淡々とした日常会話が続く。
最後、原節子が実の子供たちが帰った後、葬式後の後始末で2,3日残り、いよいよ、義父役の笠智衆と別れるシーンがある。義父は、「もう、息子のことは忘れ、いい人がいたら結婚しなさい。そうしないと私も心配だ。」と言う。原節子は「ときには、将来の不安を考えることもある。」と言って泣く。これが、唯一、感情が大きくゆれるシーンである。
小津監督のカメラ角度は、ローアングルで有名である。しかし、この映画では、ラストシーンで俯瞰した瀬戸内の風景が出てくる。また、原節子が東京に帰る汽車(もう、原節子は義父に会うことはないであろう)が、煙を出しながら、走り去るところが、やはり俯瞰でとらえられる。しかし、次の瞬間、列車の車輪がまわるローアングルになる。
好きなシーンは、妻が早朝、息を引き取った後、笠智衆が一人ぽつんと、近くの寺から尾道の晴れたおだやかな朝の瀬戸内海を見下ろすシーンである。原節子が心配で迎えに行くと、笠智衆は「今日は、暑くなるなあ。」とぽつんと言う。そして、2人は家に歩いてもどる。そして、映画はお寺の葬式のシーンに切り替わる。 |