「ザ・ゴール」の書評について
(H16年5月4週号)

私は以前、アメリカで二百数十万部売れたという「ザ・ゴール」の書評をこのホームページに書いたことがある(このホームページの社会問題コーナー「最新書評2冊:H13.6月4週号」参照)。
この本は、ビジネス小説になっているが、背景にTOCという生産管理理論がある。私の専門分野である。しかし、その理論は新しいものではない。しかし、当時の一般の書評にはそういう点を指摘したものはなかった。
要するに、何故、過去、アメリカで盛んになった手法やトヨタ生産方式の内容が、あたかも、斬新な理論としてアメリカに登場したのか。そして、その中心はトヨタ生産方式の焼き直しなのに、それが読み取れず、何故、日本でもベストセラーになったのか、という疑問がある。こんなことだから、日本には、不況に弱い企業が多いのであろう。
そして、また、トヨタ生産方式を機械的に真似して、トラブルが増加している企業も多い。カンバン方式を導入してかえって在庫が増加した企業群の例、社内カンバンを導入して、かえって、クレームが増えた企業例など、枚挙にいとまがないくらいである。

ところが、「文芸春秋」6月号の鼎談の書評コーナーを読んでいたら、経済学者で東大教授の松原隆一郎氏が次のように言っている。

「『ザ・ゴール』というビジネス小説が売れたけれども、内容はいわゆるトヨタ方式のカンバン方式としか読めないんですよ。日本の流れ作業の工場でやってきたことを翻案しただけなのに、日本人はアメリカで二百五十万部も売れたと聞くとつい有難がってしまう。」

3年たったが、私の考えと同じ意見の専門家がいた。
そのトヨタは、3年の間に、純利益一兆円を超え、ついに世界の製造業で利益トップの会社になった。「ザ・ゴール」の小説と違い、フィクションでなく、ノンフィクションである。そのノンフィクションは、「ザ・ハウス・オブ・トヨタ:自動車王 豊田一族の百五十年」で、「文芸春秋」ですでに、25回の連載である。フィクションの「ザ・ゴール」を読むより、ノンフィクションのこの連載を読んだほうがはるかに有益である。

しかし、トヨタ出身の日野自動車社長は、日野自動車の劇的な業績改善を果たしたが、「トヨタは最近、超大企業になり、その弊害を心配している。」と言っていた。
ある下請けに来たトヨタマンが、「記録はボールペン書け。でないとごまかすからだ。」と言ったという。日野社長はこういうトヨタマンが生まれつつあるのを心配しているのであろうか。