立ち作業と健康管理
(H16年6月5週号)

最近、指導先の自動車部品を作っている中小企業に行ったとき、パソコンを借りた。事務所に行ったら、3台ほどのパソコンが高い位置にある。立ってパソコンをやるのである。いわゆる「立ち作業」である。考えながら、操作するので、最初、違和感を覚えたが、操作しながら参考資料を見るのには、ちょっと体をひねればいいので、効率はよい。

20年位前、まだ、ISO9000が始まる前、地方にある工業団地にある、自動車部品を作っている中小企業の改善指導に行ったことがある。流れ作業で座り作業のラインがあったが、あるとき、親企業が来て、いきなり立ち作業に切り替えろと指示を出した。作業者はほとんどがパートの家庭の主婦であった。
この指示で、ほとんどの作業者は退職した。工業団地だから他社に移ったのであろう。会社はあわてて、求人広告を出したが、地方であるからクチコミで「あそこは、立ち作業だ。」という噂がぱっと流れたので、なかなか、人が集まらない。部品の供給に影響を与える。ついに、また、すわり作業にもどした。
今、その会社は、立ち作業になっている。工業団地のほとんどの企業が立ち作業になっているからである。

この20年位前の頃、経営工学会で「立ち作業と疲労度の関係」の実験の論文が出た。
それによると、最初の1、2週間は、疲労の訴えが多いという。しかし、それを過ぎると訴えはなくなるという。2週間くらいがやまのようである。当時、立ち作業化で中小企業の経営者は、作業者の説得に悩んでいたことが多く、相談があることが多かった。そのときは、この論文を紹介した。

6月12日のウイークエンド「私の視点」で東京学芸大学教授の有吉正博教授の「足腰の健康・立つことの楽しさを生活に」という提言がある。これを立ち作業の歴史から見ると興味がある。
氏は、ウオーキングの健康法も大切だが、「直立=立つこと」をもっと見直すべきでないかと提言している。今のライフスタイルは、この人間として立つ機会を減らしている。このため、人間の本来の姿である健全で丈夫な足腰の体力が衰えているという。街では、背中を丸めて、だらしなく座り込んでしまう若者が目につくという。「かっこいい立ち姿」になかなか、お目にかからなくなったという。
健全な足腰はできるだけ、座らずに立つ機会を多くするだけでも取り戻せると提言している。だから、寿司職人、美容師、理髪師など「立ち仕事」の多い人は健全な足腰になる。

ヨガで、「山のポーズ」というのがある。両足を揃えて立つ。足の親指の先までつけて、腿の内側に力を入れる。、下腹を締め、お尻に力を入れ、引き上げる。そして、両手を合わせ、親指を交差する。山のようにガッチリしたポーズになる。
ヨガをやっていると、立つことが楽しくなることがある。地方の駅のホームで列車を待っているとき、ベンチはガラガラでも、座る気にならない。立って、あちこちの風景を見ているほうが気持ちがよいのである。

孫が立ちだしたとき、驚いたことに、その姿勢がよいのである。ヨガのルールに自然にあっているのである。
有吉教授は、この能力は感動的なものであり、生涯、誰もがどこでも身近に大切に、楽しみ続けて欲しいとこの提言を結んでいる。

ウオーキングよりも、姿勢よく立つというスタンディングは、手軽にでき、かつ、効果の多い健康法と言える。その点から、スタンディングを見直すべきであろう。