祥伝社の「郵貯崩壊」(著者仁科剛平氏)を読む。今まで、どうもピンと来なかった郵貯の問題点が非常に明確に理解できた。多少、感情的な小泉批判もあるが、データが明確なので、公平である。
小泉内閣の掲げる郵政民営化に対し、国民の関心は年金問題であるというが、実は、2つの問題は、深いところでつながっていることが、この本で分かる。
以前、堺屋太一氏か加藤寛氏のどちらかだったと思うが、郵貯の金は返らないと言っていたように記憶するが、その構造が見えてきた。
郵便事業は、昨年、黒字になったというが非効率である。独占事業の特長であろうか。国民一人当たりの郵便利用通数は、先進国で最低の世界20位(私もほとんど、郵便でなくメールである)なのに、職員の数27万人はトップクラスという。半分に減らさないと、国際的な競争力がないという。トヨタ生産方式を導入したが、どうも抵抗が多い。それに半分に減らすには、自民党の郵政族も、組合がバックにある野党も反対であろう。
問題は、これらの非効率を、税金や郵貯の金でカバーしていることである。郵貯の金も国民の金である。
小渕内閣のときに、経済回復のために、どんどん、国は借金をした。当時、エコノミストは、大きく2つに分かれた。国がどしどし、金をばら撒いて経済を回復させれば、元はとれるという派と、緊縮財政派とに分かれた。小渕首相は、積極財政をとった。それまで、20兆円程度の新規国債発行高が、一挙に30兆円を越す。それ以来、30兆円を下がったことはない。
しかし、これらの国の借金をきれいに返すほど、経済は回復せず、国の借金は財政投融資や国債を含め700兆円、地方の借金200兆円を加えると900兆円。1000兆円になるのは、時間の問題で、1億2000万人の国民一人当たりの負担は833万円となる。4人家族で、3000万円を越す。
これに、国が、国民に約束した年金債務740兆円のうち、財源確保のできていない430兆円を加えたら、政府の借金は、約1500兆円である。ここに郵貯問題が年金と深く結びつく。国の安定収入は20兆円くらいのものだから、元本返済に50年かかることになる。それに国債の金利が加わる。年金も減らし、郵貯もつぎ込まないとやっていけない。国の借金は、主に国債である。郵貯の半分くらいは、すでにこの国債の購入にまわっている。
怖いのは、この増加した国債を返す期限がちょうど、郵政民営化の2007年頃に集中することである。これを専門家は「小渕の呪い」と言っているそうである。
著者は、だから、この返済に郵貯を当てにした政府が、2007年の民営化を急ぐのだという。
民営化して、貸し先のない郵貯は、この借金の肩代わりに回るだろう。
郵貯を銀行業務としてみると、他の銀行以上のメリットは、国家補償があり、金利が高いことだ。バブル崩壊で銀行の利子が下がった頃、金利がよい郵貯に金が流れた。1990年には130兆円くらいだったのが、あっという間に200兆を超える。
しかし、国民から得た貯金を約束した高い利子で返すには、貸出先からそれ以上の利子をもらわないとやっていけない。しかし、貸出先は、特殊法人のように、利益を得ていない先である。すでにこれらの不良債権は貸出額の3割くらいであるという。それなのに、郵貯が利子を払えるのは、税金をつぎ込んでいるからである。
すなわち、国民は、たこの足を自ら食べているたこになっていることになる。
しかし、国は、いつまでも、こんな社会主義国家のような営業をやっていられない。他の先進諸国以外にない制度である。この膨大な郵貯の面倒見をやめたい。民営化である。その点、著者が、社会主義のソ連と中国の民営化の例を挙げているは適切である。
世の中に、楽をして、金が儲かるというのは裏がある。安心して安定した利子を得られるというには、裏がある。詐欺はそうである。かえって高くつく。
郵貯は政府が保証して、利子が高いということで、預金(貯金)が殺到した。しかし、やはり、うまい話はなかったのである。
個人資産1400兆円、継続している貿易黒字が、この放漫な政治の背景にあるのであろうか。しかし、急速な少子高齢化、家計貯蓄率の低下など、問題先送りの姿勢は、さらに崩壊の道を確実に進むことになる。
ところで、余談になるが、金融機関に経営努力をしっかりしてもらおうと、来年3月から延期されたペイオフが実施される。それが最近「決済用預金」という新預金システムが登場し、この預金はペイオフ解禁後も全額保護される。この預金は現在の当座預金と同じに金利がつかないだけである。これでは、ペイオフしないと同じである。言葉遊びである。本音は、まだ、ペイオフできない金融不安があり、その解決を先送りにしたいからであろう。 |