1.NHK対朝日新聞問題
(1)発端
朝日新聞の2005年1月12日号の一面に、自民党の安部・中川氏がNHKを呼びつけ翌日放送のテレビ番組に政治的な圧力をかけたという記事が出た。この事件はこれが発端である。圧力をかけた番組は、なんと3年ほど前の2001年1月30日に教育テレビで放映された番組「女性国際戦犯法廷」である。
そして、翌日の2005年1月13日にその番組を担当したNHKの長井デスクがこの番組に「政治的な圧力があった」と内部告発的な記者会見を行った。この会見はテレビに放映された。
(2)事実
その後、安部氏が呼びつけたのでなく、NHK側が申し込んだ事実が分かる。中川氏にいたっては、放送前でなく、放送後に、しかも、これも呼びつけたのでなくNHKの要請で面会したという事実があきらかになった。したがって、発端の新聞報道は誤報であることになった。
(3)何かのイデオロギー的な影
さらに、NHKがこの番組で、放送前に説明で面会した議員は、別に数人あった。何故、3年たって、安部、中川氏だけ名前をあげたのか。
さらに、ひどいことに、内部告発した長井デスクは、安部、中川氏が政治的に圧力をかけたといいながら、それは上司からの伝聞であるという。伝聞で個人名をあげて非難するのは、大人のジャーナリストのすることではないと考えられた。
長井デスクが3年も内部告発をしないで耐えていたのは、サラリーマンとして家庭のことを考えて踏み切れなかったという。これを週刊新潮が「長井氏の家は資産家で、一般のサラリーマン家庭とはレベルが違う。」というような記事を書いていた。
どうもきな臭くなってきた。
(4)NHK対朝日新聞
今度はNHK側が記者会見をして、放送直前の1月29日に政治家を回ったが、その際、政治的圧力はなかったと長井氏の言う「上司」の局長がテレビで説明した。そして、どのような根拠でこのような報道をしたかという質問状を朝日新聞に出した。これに対して、朝日新聞は誤報を認めず、あくまで、安部、中川氏の政治的圧力があったという姿勢は崩すことはなく、裁判までもっていくと言い出した。
(5)周囲の雑音
この問題をめぐり、多くの評論家は、2つに分かれた。朝日新聞シンパは何故か、この新聞報道の事実検証でなく、政治家とNHKの馴れ合いという一般論に問題をすりかえていた。読売新聞はこの朝日新聞の姿勢を批判していた。
(6)背景の真実
「文藝春秋」3月号は、この問題の全体の流れを客観的にうまくまとめている。この番組では、「昭和天皇は有罪である。」と判決したり、弁護人がいなかったりする法廷であった。要するに、政治的圧力以前に、常識的にNHK内部の組織チェックでボツになる内容であった。これがチェックをきちんとしなかったマネジメントのまずさからか、放送が近づき、NHK幹部がこれを見てから「これはやばい」ということになったようだ。右翼の抗議活動も始まる。
ここで放送を中止すれば問題ないのだが、放送するからには、事前に政治家に説明して、了解を得なければならない。だから、相当修正してから、NHK自ら、政治家に説明を申し込んだのである。
そして、放送直前まで、かなりのカットをさらに行うことになる。大体、よくチェックすれば、最初からボツになるような番組だから、NHK幹部としては後から後から修正したくなるのは当然であろう。
2.南京虐殺事件の写真報道
亜細亜大学の東教授は、イデオロギーで南京虐殺事件を論ずるのでなく、虐殺があったという証拠に使われている写真、百四十三枚を徹底的に検証した。参考写真は三万枚以上におよぶという。その結果は「南京事件『証拠写真』を検証する」(草思社刊)にまとめられたが、結論として、南京虐殺事件の証拠写真といえるものは一枚もなかったという。
「週刊新潮」では、そのうちの写真例を2枚載せている。1枚は、日本兵による日本刀による中国人の処刑の写真であるが、足のカカトと影の関係から太陽が約七十八度の高さであることを示す。しかし、南京事件は冬に起きているので、太陽が四十五度より高く上ることはない。したがって、証拠にならない。
もう1枚は、日本兵が鶏を首から下げ笑いながら行軍する写真である。この写真は、「日本軍の行くところ、略奪され鶏も犬もいない。」と日本軍の残虐性を説得するために使われているが、これは、南京事件以前の2ヶ月前の日本の雑誌に「支那民家で買い込んだ鶏を首にぶら下げて前進する兵士」と説明があって掲載されていたものを、説明を全く悪意に変えて、当時の中国の国民党が反日宣伝用に作り上げたものであることが明らかになった。
この写真は、戦後、南京虐殺事件を取材した朝日新聞の本多勝一記者の全集にも略奪証拠として掲載されているという。
要するに、事実を冷静につめる前に、先に結論がある。思い込みやイデオロギーがある。
3.百人切り事件
これは、30年ほど前に、山本七平氏と朝日新聞の本多記者との間で戦わされた論争である。それは中国大陸の戦争で、ある日本軍の2人の中尉が、どちらが先に、日本刀で中国人を百人切るかというゲームをやったというものである。これは、戦争当時の日本の新聞に戦争中の士気高揚のため、大げさに書かれたものであるが、敗戦後、この2人の中尉は、このゲーム報道のために死刑になる。
本多記者は、中国本土を取材し、これは事実であったように報道する。これに対して、山本七平氏は、氏の軍隊経験から、日本刀のもろさを技術的に指摘し、百人も切れる武器でないことを冷静に指摘する。
これは、この息抜きコーナーの「6.人物」の「山本七平氏のこと:H14年4月3週号」の後半の記事を参考にされたい。
イデオロギーで記事を書くと、事実が消える。それは、ジャーナリストとして一番、注意すべき問題であろう。今回のNHK対朝日新聞論争で、その論議がマスコミから抜けていたようだ。
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