イギリスのサスペンス作家、ロバート・ゴダードの作品の翻訳は大体、読んでいると思っていたら、講談社文庫で発行しているのが2冊もれていた。
その1つが、この「秘められた伝言」である。原書(Dying to tell)は2001年発刊で、和訳が2003年発刊である。
今まで、読んだゴダードの作品には珍しく、主人公が、世界を飛び回る。イギリスはもとより、ドイツ、日本、アメリカと舞台は移る。文庫本上下2巻である。ケネディ暗殺が背景にある。
この作品のため、2001年2月に10日間ほど、日本に滞在したという。小説のほうでは日本では、東京と京都が登場する。京都では殺人事件まで起きる。
翻訳本を読むと、ときどき訳文が素直に理解できないことがある。
例えば、「車を持つことはしばらく以前から、リアよりもさらに世間体を気にしなくなった僕の生活から抜け落ちていた。」という文章にぶつかると、「ウッ」と考えてしまい、すらすら読んでいるペースが途端にストップしてしまう。
リアというのは、昔の恋人であるが、主人公は捨てられ、落ちぶれた生活になる。したがって、リアといた頃は、世間体があったが、今は、そんな世間体は必要がなくなったということなのであろう。それ以来、自家用車を持つことはなくなったという意味らしい。
そうなると、「リサがいなくなり、世間体を気にしなくてもよくなったので、それ以来、自家用車は持たなくなった。」いう文章のほうが、日本語として抵抗がないだろう。
そんなところが数箇所あったが、後はすらすら読めた。
国語学者の金田一春彦氏は、日本語の味わいの1つとして、男女の用語の違いをのべている。英語は、その違いがないから、小説で男女の会話が続くときは、どちらが言っているのかときどき分からなくなることがあるという。ましてや、会話が長く続き、次の頁をめくるほど続くと、途中で、分からなくなり、前の頁にもどり、会話の最初から、偶数順、奇数順を数えなくてはならないことがあるという。
この点、日本語に訳したときは、安心できることになる。下の会話は、この小説の中に出てくる主人公と弟のループの捜査を依頼する姉の連続した男女の会話の1つである。日本語では、どちらが、男女かすぐに分かる。カッコ内は直訳である。訳者の苦労が分かる。
「そう。久しぶりだね」(私はここにいる)
「何か分かったの?」(貴方は私に知らせることをつかんだか?)
「じつを言うとわからないんだ。ループがつかまらなくて」(実は何もない。私はループをつかまえることができなかった)
「つかまると思ってなかったわ。」(貴方がつかまえるとは思わなかった)
「ぼくを信用していないの、ミル?」(私を信じないのか、ミル?)
「そういう意味じゃないの」(そういう意味ではない)
もちろん、最初が男で、後は、男女交互である。 |