この本は「このミステリーがすごい!」の2005年の第1位に選ばれたという。サスペンス小説が評価されるのは、その推理展開の巧妙さであろう。
この作家は、すでに、推理小説部門のいくつかの賞を得ており、デビューして十数年になる。今回、ベストワンに選ばれたというので、5百頁近いこの小説を読んだ。
題名がなまなましいので、カバーしないで電車の中で読むのは気がひけた。副題が英語で「The Gorgon’s Look」とある。Gorgon(ゴルゴン)は、ギリシャ神話に出てくる髪はヘビで、見る人は恐怖のために石になったといわれる三姉妹の一人である。いちばん末は、メドーサである。
サスペンスは通常、犯罪がからむ。だから、小説を書く場合、現実の警察との関係をどのように小説の中に位置づけるのかが、作家にとって工夫が必要である。
例えば、内田康夫の小説には、主人公としてルポライター浅見光彦が登場するが、彼の兄は警察庁刑事局長という設定で、警察をからせせる。
この「生首に聞いてみろ」では、主人公である作家法月綸太郎の父が警視という設定で警察がからむようになっている。内田康夫と同じような設定である。
そのため、主人公法月綸太郎の活動は、捜査活動そのものが中心でなく、警察からの情報をもとにするか、父とともに動く。警察内部に立ち入らないので、ある意味で楽な設定である。
「半落ち」の横山秀夫氏は、警察の活動を中心に描く。これは氏が新聞記者経験から、警察内部の事情が詳しいからである。
西村京太郎のトラベルミステリーの主人公は十津川警部だから、これももろに警察がからむ。しかし、よく出てくる百人近くの大規模な捜査会議はなく、数人の会議が中心である。全国を飛び回るので、県警との関係もからむ。
タクシードライバーが探偵をするサスペンスがあるが、この場合、主人公はもと警察官で、そのときの部下とのつながりが警察からの情報源となる。
科学捜査班というちょっと違った角度から刑事の活動とからめて、推理していくのもある。
この「生首」のサスペンスは、石膏芸術家、写真家、作家などがメインに登場する世界である。後半で医者が絡んでくる。いずれにせよ、小説が展開する場は、松本清張がよく扱う一般人の世界とはちょっと異なる。
ある石膏美術家の死とそれに伴う遺作である石膏の首だけの盗難が事件の発端である。これが、途中で、殺人事件となる。次々から次へと意外な展開が続いていく。さすがは、第1位のサスペンスである。
事件の重要なカギは、人体の石膏作りの方法である。製造業で、プラスチック成形、ダイカスト成形というのがあるが、いずれも、型にプラスチックやアルミを流し込んで成形する。石膏の場合はデスマスクのように、人が型になる。この際、生きている人の型をとる場合、モデルは目をつぶるが、デスマスクは、その必要がないので、目は開いたまま成形できる。
この違いが事件の真相追求のカギとなる。 |