国語研究所がいくつかのカタカナ英語を日本語に代えて使うように推奨するリストがまた出た。確か3回目であろう。
このなかで、「リードタイム(lead time)」を「所要時間」として置き換えるように推奨している。これには、違和感を覚えた。
リードタイムはもともと、生産管理用語として登場したが、最初は「調達期間」、「入手期間」、「先行時間」とも訳された。ある物を調達、入手するのに「先立って」必要な時間という意味である。ある経営英和辞典には「ある意思決定をしてから、それを実行に移すまでの準備時間」と解説しているものもある。
逆に、「所要時間」のJIS定義(JIS8121)では「作業を遂行するのに要する時間」とある。意味が全く違う。
JIS用語定義にも「調達期間」があり、対応する英語はリードタイムである。定義では「発注してから物品が納入され、検査が完了し、いつでも出庫要求に応じられるようになるまでの期間」とある(JISZ8121)。
「品物Aを発注して入手するには1週間かかる」というのを「品物Aのリードタイムが1週間である」という。納期が11月17日であれば、発注は11月10日にしないと、納期通り入手できないことになる(JISZ8142)。リードタイムの短縮とは、例えば、この1週間を3日にすることをいう。
これに対して、品物Aを作るのに3日かかるとすれば、「所要時間」が3日(1日8時間として24時間)であるという。「所要時間」が3日であっても、例えば、供給者側で在庫を持てば、購入者側の「調達時間」は配達だけの1日に短縮される。「所要時間」と「調達時間」は関連しているが別な時間である。
パソコンでも同じ。文や絵を描いたりしてある情報を作る時間が「所要時間」、これを利用する人が、その情報にアクセスして利用できるまでの時間が「リードタイム」である。この場合は、「調達時間」よりも「入手時間」のほうが分かりやすいかもしれない。
物を作る「所要時間」はさらに本当に作っている時間の「加工時間」、工程間に停滞している「停滞時間」、検査している「検査時間」、工程間を移動している「運搬時間」と4つに分かれる。この総和が「物を作るリードタイム」である。これが1週間かかるなら、納期の1週間前に加工を開始しなくてはならない(JISZ8142)。
トヨタ生産方式はリードタイム短縮を強調する。特に強調されるのは、物の停滞時間の短縮(在庫ゼロ化)である。それ以前のアメリカ型大量生産は、「加工時間」の短縮を強調した。そのため在庫(停滞)はたくさん持った。結果的にリードタイムは長くなった。
このように、「所要時間」と「調達・入手時間」とは本質的に違い、リードタイムに「所要時間」を使うと意味が混乱する。
無理に「所要時間」を使うとなれば、「調達・入手にかかる所要時間」と「作るのにかかる所要時間」という長たらしい前置きをつけて区別しないと誤解を招く。
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