2000年改訂・文書の定義未だ混乱か
 ISO9000sの2000年改訂は、いよいよCD2(Committee Draft)の段階を終り、12月にDIS(Draft International Standard)が発行された。ISO9000sで今まで、文書(Document)の定義がなく、ISO本部の発行文書でも混乱していた。それが2000年改訂で、その定義が登場した。しかし、それが過去の混乱を表面化しただけで問題を起こしていた。今度のDISでは、CD1、CD2では変わらなかったものが大きく変わっている。しかし、依然として、歯切れが悪く、今後に大きな影響を与えそうである。
 文書の定義は、記録との関係からくる。この違いは、このホームページのQ&AコーナーのQ15で「中小企業のためのISO9000:ISO/TC176からの助言」(原文は1996年発行)の名定義を紹介している。しかし、この名定義が、定義を扱っているTC176のSC1グループにうまく伝わっていないのであろうか。
1. CD1での定義
 1998年7月に発行された。文書の定義は「情報を含んでいる媒体」であった。そうなると「文書管理」といえば、その内容の審査、承認(情報の信頼性)でなく、紙やフロッピーが損傷しないように保管することになる。そして記録はDocumentの下に来た。そうなると記録との違いは不明確となる。早速、コメントをTC176国内対策委員会に提出した。その中で、上記の「中小企業のためのISO9000:ISO/TC176からの助言」の定義を用いるべきとした。そして、文書と記録を総合するのは、情報だから、「情報」と言う定義にしたらと提案した。
2. CD2での定義
 5ヵ月後の1999年2月にCD2が発行された.文書の定義は変わらず「情報を含んでいる媒体」であった。そこで、TC176の委員である飯塚教授に直接、連絡した。飯塚教授も「中小企業のためのISO9000:ISO/TC176からの助言」の文書と記録の定義は名定義として評価し、TC176国内対策委員会では、この定義を採用しているとのことであった。そして、DISでは用語定義委員会(SC1)の日本代表に強く念を押すということであった。
3. DISの定義
 CD2の6ヶ月後の1999年12月にDISが発行された。文書の定義は大きく変わった。「情報及びそれをサポートする媒体」となった。しかし、記録との分離はなく、Documentの1つとして、記録が定義されていた。しかし、これでは「文書管理」の中に「品質記録の管理」は含まれることになる。ISO9001と矛盾する。すなわち、ISO9001:2000のDISでは、文書の管理(番号は、5.5.6)は、発行前の承認、旧文書との区別など、従来の「4.6 文書及びデータの管理」と同様の要求である。一方、品質記録のほうも、項を変えて(番号は、5.5.7)、その保管、維持、保管期間を要求している。従来の「4.16 品質記録の管理」と同様の要求である。
 このように、独立した意味になっている。しかし、用語定義は、区別なく、両者ともDocumentに含まれる。
4. 混乱の原因
(1) 機能と手段の混同
 頭の良い委員が、このような基本的な用語で混乱を起こしているのは、何故だろうか。英語はドキュメンタリー映画というようにDocumentを記録というように使うことが多い。日本語でも「記録文書」という言い方がある。この場合の「文書」は「記録情報を保持する機能を持っている『紙』」という媒体を意味する。「紙」が「文書」を意味し、「記録」はその媒体の持っている情報の性質(機能)を示す。保管や索引が管理上必要になる。すなわち、「記録情報+紙媒体」という意味である。しかし、「指示文書」というと、「紙」であるが「指示」が機能であり、誰の承認を得たかが管理上、問題になる。図面などの仕様書がそれにあたる。
 同じ媒体でも、機能が異なると管理方法が異なるのであり、道具が同じでも使用目的が異なるとき、管理方法が異なるのである。
(2) 2種類のDocumentの管理の違い
 @図面や仕様書のように「こうすべきである」という指示情報機能を持ったDocumentは、それを実行に移す前に、その情報の信頼性を確認するために、審査・承認をして、かつ、正確に最新版を実施者に伝える管理が必要である。
A検査記録のように「こうであった」とう記録機能情報を持ったDocumentは、それを確認し、保管し、索引しやすくすることが必要である。これは、Recordという別な呼び名がある。
 この2つのDocumentは機能が異なるのでその管理は同じでないのである。ISO9001のほう管理手順の規格だから、道具のDocumentが同じからといって、2つを使い分けないと管理にならない。だから、「4.6 文書及びデータの管理」と「4.16 品質記録の管理」は独立した管理内容となっている。しかし、中身はDocumentで同じである。
 今度のDISで、Document は、CD1、CD2の「媒体」だけから「情報」となったのは、一歩前進であるが、発行前の承認、最新版の管理、外部文書の管理などの Control of Documentsと記録情報の媒体の管理も「論理的には」同じに適用されるという大きな矛盾となる。SC1の用語委員会では、基本的にA+B=Cで、CとAは定義できたが、Bが定義できておらず、SC2のISO9001のほうでは、B=Cのような使い方なので、用語定義に置き換えると A+C=Cという矛盾となっている。この式の場合、Aは記録、Cは、Document である。
 この用語定義はISO9000sの文書体系の基本になるので、工程設計とともに、注目される定義問題である。設計も今度の改訂で初めて用語定義に登場し、これには工程設計も明確に含まれることになっているので、解決したが、Documentは、まだ、難物である。これを明確にしておかないと、また、不勉強な審査員が、愚にもつかない理屈をいうようになるだけであり、品質管理上、好ましくない現象を起こす一因となるであろう。