「製品の設計」と「製品設計」の違い(H12年2月号4週号)
1. DIS説明会での工程設計論議
 2月21日に日本規格協会によるISO9000s:2000年改訂版のDISの説明会があった。用語定義の分科会(SC1)のDISでは、「設計・開発」は工程設計が含まれるという定義の説明があった。Q&Aで出席者から質問があり、「私のところは、部品メーカーで、ISO9002をとったが、今度の改訂で新たに設計管理を適用されるのか」と質問があった(仮にA氏とする)。SC1日本委員の講師側から「定義によるとそうなる。」と回答があった。ところが、別の出席者が「ISO9001:2000・DISは設計/開発は『製品の設計』に適用するとある。
 一方、用語定義のほうは、参考例として設計・開発には『製品の設計』と『工程の設計』があるとしている。したがって、ISO9001のほうは『製品の設計』と限定しているから、『工程の設計』はISO9001の設計管理には、含まれない。」と反論があった(仮にB氏とする)。
 講師は、SC1委員なので、SC2で扱うISO9001の問題にはちょっと、窮したようであるが、SC1,SC2の2つの委員会の調整が必要であるということであった。ところが、その後、ISO9001を扱うSC2の担当講師とのQ&Aになると、講師は個人的な意見であるが、「工程設計は、設計・開発に含まれない」とし、SC1との調整が必要であると説明した。実際に、重大な調整となろう。しかし、過去の経緯があるだけに、政治的な調整になりそうである。
2. 和訳の問題
 実は、この『製品の設計』と『工程の設計』の議論の背景には、和訳の問題がある。
 英語は、product design と process designでCD2もDISも英語は同じであるが、和訳だけ、次のように、何故か、変えている。
 CD2のとき、product designは「製品設計」、DISのときは「製品の設計」と「の」が入った。これが、先のB氏の質問の呼び水になった。
 process designは、CD2のときは「プロセス設計」、DISのときは「工程の設計」となっている。
 すなわち、訳がCD2のままなら、上記のB氏のような意見が出ないことになる。また、「の」の有無で、日本語訳に振り回される議論となった。
 一方、ISO9001のほうは現在の1994年版も「製品の設計」そのままで、その英語はdesign of the product である。この0f が曲者である。これを「の」と訳している。通常、英語も日本語も製品設計、工程設計とペアでいうときは、英語では「の」にあたるof がないし、日本語でも「の」をつけない。
3. 指針でのproduct design と process design の登場
 このペアになっている2つの設計の用語は、今回が初めてではない。例えば、ISO900−2の指針の4.4 設計管理では、1993年版からproduct designが登場するが、このときは、process design とペアである。そして、両者とも設計管理に含まれるとしている。どうも英語の「product design」と「design of the product」は使い分けがあるようである。
 さらに、ISO9004−3:1993の7.2項の参考2では「設計・開発には、次の用語を含む」として「development of product design」と「development of a process design」の2つをペアであげている。これも design of product、 design of processではない。もう7年も前のことである。
4. ISO9004−1と工程設計
 ISO9004−1には、工程設計という用語は登場しない。しかし、8.1で、「仕様作成部門及び設計部門は、顧客の要望を、製品企画書から、材料、製品及び工程(processes)の仕様書への翻訳を行うがよい。」とある。すなわち、製品企画書を設計インプットし、設計アウトプットとして、材料仕様書、製品仕様書、『工程仕様書』の3つを想定している。
 さらに、設計アウトプットの審査であるデザイン・レビューについては、8.4.2で、その審査対象を「顧客の要望及び満足にかかわる項目」「製品の仕様にかかわる項目」『工程の仕様にかかわる項目』の3つに区分している。すなわち、3番目は、設計審査の対象が工程設計アウトプットとなっている。
5. QS-9000での扱い
 product design とprocess design は、QS−90000でもペアとなっている用語である。特に品質計画の指針の「APQP」では、中心的なペアである。ここでは、product designとprocess design とのアウトプットが明確で、最初の段階では、並行している。設計段階での工程設計のアウトプットとして、新機械・設備、新型・治工具、試験機、計測機器などの仕様書があげられている。QS-9000本文の設計管理の項では、設計者の資格要求に対して、いろいろな例をあげている。その中に、Design for Manufacturing(DFM),Design for Assembly(DFA)がある。「製造/組立の設計」である。工程設計である。
 日経BP社で、1996年に「生産コスト削減のための製品設計」という翻訳を出版している。もとの英語は「Product design for Manufacturing and Assembly」で、先のQS-9000のDFM,DFAのことである。このproduct designはペアでないので、design of productになろう。Process designも含まれた「製品の設計」である。フォード、GM、IBMを始め、多くのアメリカの有名企業を指導した結果が含まれている。具体的な内容は、手作業による組立、ワイヤハーネス組立、ロボット組立、プリント基板加工、切削/研磨加工、射出成形加工、板金加工、ダイカスト加工、粉末冶金加工の典型的な工程設計方法をのべている。日本では、プリント基板以降の工程は部品メーカーの基礎的な設計技術である。
 但し、QS-9000では、包装やレイアウトは、簡単なせいか、設計としていない。
6. 日本の品質の優秀性と工程設計
 日本の品質の優秀性は、その作りこみにある。唐津氏の持論である。
 ISO9000が品質保証を狙うなら、工程設計の管理が抜けていることは致命的である。特に、日本製品の品質を支えている部品メーカーの設計管理は、重要である。その設計管理は工程設計の管理である。
7. 移行期の問題
 部品メーカーで、工程設計で堂々、ISO9001を取得した企業は関係ない。他のメーカーは安心できない。しかし、現在でも、審査機関に「ISO9001を取りたい。」と言えば、審査機関によっては、「融通性」を発揮し、顧客の図面の清書行為が少しでもあれば、部品メーカーでも、これを設計として扱い、ISO9001を認める。バラバラである。だから、審査機関は2000年改訂でも、また「融通性」を発揮し、過去の失敗のメンツを潰さないために、「清書」を設計としたようになんとかするであろう。だといって、あまり「融通性」を発揮すると、品質保証上、意味がなくなり、トヨタのように「ISO9000はいらない。」という問題に発展するかもしれない。
 ISO9004−1でも、設計に工程仕様という言葉が登場するし、QS-9000でも、ISO9004−3でも、製品設計と工程設計の同時設計(コンカレント・エンジニアリング)を強調しているし、トヨタ方式や、品質工学や、唐津氏がいうように、工程設計向上が品質安定と向上に寄与した事実は消すことができない。