是正処置と予防処置の境界線(7月2週号)
1. 94年版での追加
 ISO9000では、87年の初版では、是正処置しかなかった。94年版で予防処置が追加になった。この草案の検討段階ですでに、是正処置と予防処置の境界のあいまいさが問題になっており、それがあいまいなまま、スタートし、現場の審査段階まで尾を引きずっているようだ。
2. 原文の混乱
 94年版の「4.14.3 予防処置」のa)に「不適合の潜在的原因を除去する」とある。これは、おかしい。潜在的な原因は、分からないので、除去できないからだ。これは eliminate potential causes of nonconformities の英語の原文がおかしい。potential の位置がおかしい。「原因」を修飾しているからだ。これによって誤解する人が出る。
 正確には、「潜在的な(まだ、未発生の)不適合の『顕在化』した原因の除去」である。まだ、不適合は顕在化していない(潜在的)が、原因が分かった(原因は顕在化した)から、その原因を除去できるのである。したがって、potentialは、nonconformities「不適合」を修飾すべきである。すなわち、予防処置はeliminate causes of potential nonconformities となるべきである。このa)は、87年版の「是正処置」のa)を単純に転記して移行しているからであろう。
 2000年改訂案では「潜在的な不適合の原因除去」と修正され、上記のようにpotentialが直接、nonconformitiesにかかっている。
3. 用語定義
 ISO8402では、予防処置は「潜在している不適合の発生を予防するために、その原因を除去する処置」とある。是正処置は「再発予防」と定義している。2000年改訂案では、わざわざ、「参考」でこの両者の違いにふれ、「予防処置は、発生予防のためにとられるのに対し、是正処置は再発予防のためにとられる」と念を押している。定義は簡単明瞭である。それなのに、何故、もめるのであろうか。
4. 具体的な例
 ある航空機がエンジントラブルを起こしたとする。原因が分かり、改造をしたとする。これは、再発防止だから、是正処置である。これは、問題がない。しかし、まだ、トラぶっていない(未発生の)「現存する他の類似の同型機」について、原因除去のために改造をしたとしよう。これは、予防処置だろうか、是正処置だろうか。これが人によって異なる。
 さらに、このエンジントラブルの原因を深く追求すると、「現存する同型でない他の飛行機」についても改造することがトラブル発生の予防に効果的であるとしよう。これは、予防処置だろうか、是正処置だろうか。また、さらに原因を追求して「現存する設計基準の不適合」を見出し、設計進行中のものや、これから設計する飛行機の設計改善するのは、予防処置だろうか、是正処置だろうか。
 さらに、何故、このような不備な設計基準を作成・承認したのかと分析すると、設計者の質や設計管理の不備の問題になったとする。そうなると「現存する不適合な設計者や設計管理システム」の改善対策となる。これは、予防処置だろうか、是正処置だろうか。皆、不適合が「現存」している。きりがない。そして、対策で不適合の発生を予防している点は共通している。
 ある工場で、審査員が「ある不適合品の発生から類似製品や類似工程で未発生のものに対する対策は、予防でなく、是正処置である」と言ったので、工場の人が「では、予防処置とはどういう場合か」と質問したら「例えば、現場を歩いていたら、ひらめくような改善である」と言ったという。後で、その現場の人たちは「それでは、それは『天の声』ではないか。」と笑い話になったという。
 ISO9001の「4.14.3 予防処置」のa)で予防処置の情報源の例をあげている。すなわち、「工程及び作業、特別採用、監査結果、品質記録、サービス報告及び顧客の苦情」である。皆、過去の客観的な問題記録データである。「特別採用」や「顧客の苦情」は、「是正処置の情報源」と共通している。「天の声」ではない。もともと、このa)の項目は、87年版の「4.14 是正処置」のb)にあった内容を、そのまま、持ってきているので、「予防処置」のための独立した情報源はない。「是正処置」の情報源と同じである。
5. 是正処置も予防処置も改善すること
 是正処置も予防処置も「現存する何か」を変えて、不適合発生を予防するのは同じである。すなわち、何かの「現存する不適合」を「改善」することである。問題は改善には、レベルがあることだ。トヨタ方式では「原因の除去」でなく、「真因の除去」を要求している。真因追及の5W(5つのWhy)もレベルの深い追求をせよという意味である。水平展開、横展開、垂直展開など、すべて深さにレベルがある。アメリカの伝統的な改善技術の体系であるIE(Industrial Engineering)にもClass of change というのがあり、5段階になっていて、できるだけ段階の高い改善(change)をするようにという理論がある。問題は、このレベルには、限界がないことである。一を聞いて十を知る人の予防処置は深い。しかし、一を聞いて三を知る人の予防処置は浅い。しかし、改善は改善である。予防処置は予防処置である。
6. 予防処置のレベルと是正処置との混同
 人は基本的に失敗から学ぶ。「賢者は、先人の失敗(不適合発生)に学び、普通の人は自己の失敗で学び、愚者は失敗しても学ばない」と言う。「愚者になるな」というのが是正処置の要求である。「賢者になれ」が予防処置である。しかし、問題は、賢者にはレベルがあることだ。
「レベルが低いから、『是正処置』である。」としたのが混乱の原因である。そのため「では、どこのレベルから予防処置になるのか」という不毛の議論になるからである。「レベルの低い『予防処置』である。」と言うべきである。あるいはISO9000的には「効果的でない予防処置」と言うべきである。
 しかし、審査ではレベルの浅さはアドバイスはできるが不適合にならない。不適合となるのは、その予防処置が効果的であるか、フォローする管理システムがない場合である。
 品質向上という観点からすると、このような不毛の議論をするより、一つの問題を、3現主義、5Wなどで深い追求をして、レベルの高い(水平展開の広い)改善をすることの方が重要である。
7. QS−9000第3版の要求
 ここでは、4.14.2.2の追加で「類似製品と類似工程への原因除去」を是正処置に含めており、予防処置に含めていない。ISO9001の「4.14.3」のa)と矛盾する。これも類似性の追求の深さにレベルがあるので混乱は避けられない。類似性の抽象度を高くすると、水平展開の広がりは拡大するので、予防的な内容が濃くなる。
 不適合の是正処置のとき、深く追求をすると、皆、予防処置につながり、独立した予防処置はゼロになる。後は、占い師に「天の声」を聞いて「お払い」をしてもらい、予防するしかない。もっともそれは予防処置として「効果的」であるかは疑問である