検査依存のマイナス効果
(H18年1月3週号)

A 氏: 耐震偽装問題で、「検査機関は何をやっているのか」、「検査は手を抜いているのではないか」とマスコミから政治家から、大騒ぎだが、これを聞いていると、僕が40年前の1960年代に、電子部品の工場の検査課を担当していた頃を思い出すね。

B 氏: 当時は、日本の品質は安かろう、悪かろうで世界的に有名だったものね。当時、観光でアメリカのグランドキャニオンに行ったことがあるが、頂上のみやげ物店で安い土産物を買おうと思って、品物の裏を見たら、メイドインジャパンとあったよ。

A 氏: 僕が担当していた部門は、品質管理・検査課といって、品質管理と検査を兼任で担当していた。当時は、一般に品質保証課という名称はなかったね。課の人数は百人くらいかね。ほとんどが検査員だよ。受入検査、機械加工後の中間検査、それに20本くらいある組立のコンベヤーラインの最後にいる全数検査をする出荷検査の3つに分かれていた。

B 氏: 品質管理としては何をやっていたの。

A 氏: クレーム対策、社内の検査で発見された不適合品の処理の指示と対策、品質統計の作成などだね。

B 氏: 品質管理と検査を一緒に持っていると大変だったのではないの?

A 氏: 顧客クレームがあると、「検査が見逃した」とすぐ追求される。「検査員には眼があるのか」となる。そして、検査のリーダーと品質管理担当が、顧客に謝りに行き、選別したりして、対策書を書いて顧客に提出する。ひどいときは、不良品を作ったご本家の製造のリーダーが「また、検査が見逃した。ザマァ見ろ。」と喜ぶ。製造と検査は犬猿の仲だからね。検査は厳しくなり、増員されるが、クレームは一向に減らない。

B 氏: 不良を作ったところが責任感をもっていないから、もとの品質は向上しない。

A 氏: その通り。それに、検査には、「検査項目」というのがあり、それ以外の品質は検査しないから限界がある。例えば、破壊しないと分からない品質は、全数検査は不可能だ。
それから、受入検査と中間検査で発見された不適合品は特別採用が多かった。これらの不適合品を組立ラインでちょっと修正するか、選別して使えば、特別採用でき、納期にも間に合う。品質よりも納期を守るための調整役みたいだったよ。

B 氏: 生産管理の仕事も含まれるね。それに、組立ラインのムダな作業が増えるね。

A 氏: 2年くらいして、経営者側が何かおかしいと気がついたらしい。まず、品質管理課と検査課を分け、検査員を製造部門に吸収させた。検査課はなくなった。品質責任は製造部門にあることを明確にした。

B 氏: 品質は工程、すなわち、ISO9001:2000でいう設計含めた製品実現プロセスで作られる」だね。この世代の経営者は、戦後の崩壊から立ち上がったせいか、感性が鋭いね。トヨタ、ホンダ、松下、ソニータイプだね。

A 氏: 顧客クレームがあっても顧客に謝りにいくのは、製造部門リーダー中心になった。

B 氏: 特別採用はどうなったの?

A 氏: 当時から、顧客による特別採用はなかった。顧客は厳しかった。だから、受入検査と中間検査で発見した不適合品の処理として行われた。特別採用の申請は僕だが、承認は工場長だ。申請枚数が多いので、工場長はよく見ないで、判を押していた。
それが、ある日、突然、「今日から、特別採用に一切、判を押さない。」と言われた。それは経済的でないと反対したが、拒否された。

B 氏: 納期を安定して守れないのではないの?

A 氏: その通り。しかし、組立ての出荷納期まで遅らすわけにはいかない。だから、機械課は、ときには徹夜で再加工したり、選別したりだよ。受入検査不良の場合、外注もすぐに工場に来て、遅くまで選別するということになる。

B 氏: これも「品質は工程で作られる」の考えだが、実際にやると大変だね。残業が増えてコストアップになるのではーーー。結局どうなったの?

A 氏: 3ヶ月くらいは、混乱した。しかし、工場長は知らん顔だ。不思議なことに、それが過ぎたら、急に安定した。要するに、現場の技術屋が自分の問題として必死に工程を改善した。結果的に工程不良が激減した。大きなコストダウンとなった。品質が良く、かつ、コストが低いという、今から思えば世界と競争できるレベルの品質になったわけだ。社内不良が減ると必然的に顧客クレームも減ったね。

B 氏: 検査依存からの脱却効果だね。デミングがその14原則の12番目で「検査依存」をいましめているのは当然だね。アメリカの自動車業者の部品メーカーへの規格であるQS9000では、1994年の初版から検査の要求項目に「検査により不良を発見するよりも、統計的な工程管理、ポカヨケ、目で見る管理などで、不良の発生を予防すること。」というQS9000独自のshall要求があった。これは検査による品質保証主義の否定という日本車メーカーの考えを一部反映しているね。

A 氏: その通りだ。1970年代から、80年代にかけて、「品質は工程で作られる」が日本の電気、自動車業界などに徹底し、世界的な活躍の底力となった。その眼で今の耐震偽装問題をみると、「検査が悪い」という騒々しさには、呆れるね。
それにしても、ISO9001が盛んになってから、この品質を築き上げた実績に学んでいない企業が、日本にも増えてきたね(このホームページの基礎知識コーナーの「2つの違った品質保証のパラダイム(paradigm):H15年3月1週号」「ISO9000の検査主義の変遷:H15年9月4週号」、参照)。もう一度、基本にもどるべきだよ。