N社予備審査後日談(9月2週号)
1.指導型の審査となる
 このホームページの8月5週号で、とりあげたN社の予備審査の詳細を聞くことができた。まことにひどい審査で、審査でなく、勝手に自説を押し付けに来ただけであった。おそらく、小企業(N社は30人くらいの部品メーカー)なので、審査員には勉強不足であろうという先入観があったようである。審査員は、良い審査をするには、先入観を持たないようにしないと、正確な審査ができないことは常識である。
2.幹部の抵抗
 N社の管理責任者と課長、係長の幹部は、SHALLをよく勉強し、真剣にISO9001の定着に取り組んで来たので、おかしい指摘には反論した。幹部が反論するので審査員に気兼ねして、オロオロしたのは、実務にあまり関係のない社長だけであった。予想外に、幹部がしっかりしているので、審査員もタジタジとなった。30人くらいの小企業なので、9時から午後5時頃までに十分終わる審査が、夜の7時半までかかった。思いがけない抵抗と、きちんと勉強しているため、審査員はメンツを保つために、人格的な地が出てしまい「私の言うことを聞かないと、指摘事項にあげますよ。」とか、「簡単な修正なので、直したらどうですか。」と脅かしも加わった。あるときは「これは、つぶやきである。」とも言ったという。日本でもISO9000が始まった初期の頃は、審査員が「ISO9000を取得したいなら、私の言うことを聞きなさい。取りたいのでしょう?」と脅す審査員がいたというが未だに、先進国に笑われるような審査員が残っているようだ。
3.審査員の反省
 当日、口頭で審査員が言ったものは、会社側がメモし、20項目ほどあったが、審査員は、強硬に抵抗されたので、反省したのか後で文書に書いてきたものは、7項目に激減した。帰り際に審査員は「会社のためを思ってやや細かいことまで言い過ぎた。」というようなことを反省的に言っていたというが、会社のためにならないことを言うから、幹部が抵抗したのである。審査員が熱心になるほど、品質に関係のない無駄が増加するので、迷惑なことである。あっさり、最低の要求を満たしているかの審査だけすれば、企業のためになる。
4.教育・訓練のコッケイ談
 審査員は、4.18の教育・訓練の審査になると、マニュアルを見ないで、いきなり、大型の運転免許の話をして、訓練ニーズの重要性の一般論をしゃべり始めた。これが延々と30分くらい続いた。管理責任者があきれて、「貴方の言われた趣旨は、当社に当てはめ、全部、マニュアルに書いてあります。」と説明したら、マニュアルを読み、「ああ、ちゃんと書いてありますね。」で終わった。30分の講義は何の意味があったのか。
5.文書指摘のコッケイな内容
 文書での指摘7件は、単純な記入不十分な2件以外は、実にナンセンスなものであった。例えば、ISO9001の4.14.2 a)に「顧客の苦情及び不適合品報告書の効果的な取扱い」とあるが、N社では、「顧客の苦情」を「顧客のクレーム」としてマニュアルに書いてあった。審査員は、「顧客のクレーム処置の手順はあるが、ISO9001の要求の『顧客の苦情』の効果的取扱いの手順がない。」として不適合として指摘した。単語を一致させろというわけである。もし、クレームを使うなら、用語定義をせよという要求である。N社が単語の一致を拒否したので、後から、上記のようにコジツケつけて来たのである。ところが、N社では「不適合品報告書」に当たるものは「不具合報告書」として使っている。このほうの単語の不一致は指摘していない。気まぐれである。N社は反論として「日本語の『苦情』は用語上、厳密に定義されて用いるべき用語でなく、ISO8402でも定義されていない。権威ある日本語辞典では、クレームは苦情として説明している。また、すでに貴審査機関で認証されているいくつかの企業のマニュアルでは、クレームとして定義なしで使っているものもある。」として、修正を拒否し、反論をその審査機関のマネジャー宛郵送した。
6.無駄な文書要求型
 20項目の指摘の中心は典型的な意味のない文書や表示を要求するものであった。代表的なものは、次のようなものがある。N社幹部は、全部、受入を拒否したら、文書指摘では(1)以外は消えた。
(1) 「図面に参考データを添付するときは、添付印を右下に押しているので、右下を手順書に追加すべきである。」―――これは、たまたま、図面の右下に空白が多いから印を押しているだけである。ISO9001の4.2.2の「品質システムの構成部分となる手順の範囲及び詳しさは―――」のSHALLの違反をせよと言っている。
(2) 「コンピュータのモニターリストにタイトルがない。」―――これもISO9001の4.2.2の「品質システムの構成部分となる手順の範囲及び詳しさは―――」のSHALLの違反をせよと言っている。
(3) 「朱印を押しているが手順書に朱印とない。」―――これもISO9001の4.2.2の「品質システムの構成部分となる手順の範囲及び詳しさは―――」のSHALLの違反をせよと言っている。
(4) 「日程計画表の納入日に記入がない。」―――この欄は、納入完了後、経理が記入する欄なので、当然、計画段階では、空欄である。この帳票は、効率的を考え計画機能と記録機能を兼ねているのである。
(5) 「計測器に有効期限表示があるが、さらに校正間隔(有効年限)も表示したほうがよい。」―――どこから、こういう奇抜なアイデアが出るのであろうか。N社では、校正基準書に校正間隔を明記しているので、それを示し、計測器に表示するのは、意味ないとして拒否した。
(6) 「品質方針は、3か条となっているが、この箇条ごとに、品質目標がない。」―――N社の品質方針は、品質重視、責任重視、チャレンジ精神という抽象的な3か条である。しかし、品質目標は、具体性を持たすために、年度単位で部門別、課題別である。品質方針は抽象的なポリーシーであり、あらゆる活動のベースであるから、品質目標と、同じ分類になるはずがない。
7.小企業のISO9000の問題点
 N社は、正しいISO9000を学び、おかしな審査にもきちんと対応し、トヨタが嫌った無駄なISO9000にならないようにしている。しかし、一般に、審査で、勲章としてISO9000をとるため、このような審査員の言うままになり、システムを修正して、トヨタの嫌う、無駄に満ちたISO9000を取得している小企業が大部分ではなかろうか。
8.N社での予備審査の効果
 N社の以上のような予備審査は、会社のシステム定着には効果的であった。何故なら、幹部は自分たちのシステムをナンセンスな指摘に対して守り抜き、抵抗した自信がつき、かつ、これを守らないと、かえって、笑われることを自覚したからである。その意味では、審査員がよくなかったことは、逆に効果的であったとも言える。