小企業のKA社の不適合指摘(H12年9月3週号)
 最近、20人位のKA社が予備審査で次のような指摘を受けた。
1.品質マニュアルの配付がないという指摘。
 KA社は規模が小さいので、マニュアルは、原本1冊で配付がない。ここでは、社長、管理部長(管理責任者兼任)、総務部長、営業部長が1つの部屋におり、そのすぐ上の2階に設計部長がいる。作業現場に製造部長がおり、その現場は、歩いて1分ぐらいの距離である。これがすべての管理者である。会社の隅々まで歩いても1〜2分である。大企業では、1つの係にも満たない面積に、すべての管理者がいる。大企業では、そんな1係までマニュアルを配付しない。せいぜい、部長か、課長止まりであろう。
 こうなると、小企業では、品質マニュアルの配付は意味がなくなる。さらに、現場に置いても誰も見ない。現実に、KA社は、準備段階で全社員に品質マニュアルを参考に配付した。予備審査も近くなったので、回収しようとしたら、半分くらいが行方不明で分からなかった。現場は図面があれば十分で、毎日、マニュアルを参考にして仕事をすることはないのである。したがって、配付も無駄であるし、配付すると無駄な配付に無駄な台帳管理が発生する。小さな無駄でもこれを省き改善するというトヨタ的な企業の基本姿勢と矛盾する。
 ところが、これは、審査員がすぐに配付すべきという指摘となる。その根拠は、ISO9001/2規格の「4.5 文書及びデータの管理」の「4.5.2 文書及びデータの承認及び発行」の「最新版を容易に利用できるようにしておく」ことである。「容易」の解釈である。これが、車で30分くらいのところに、別工場あれば、配付は必要であろうが、歩いて1分で行ければ、「容易」なのか、3分なら、「容易」でないのか、意味のない議論である。第1にマニュアルに書いてあるのは管理的なことなので、図面のように頻繁に変わるものではない。次にそれは、作業者に関係することは少ない。KA社は、これはshallに該当しないとして、修正不要とした。
2.トレーサビリティの「範囲」の無理解による指摘
 KA社は完成品に製造番号をつけ、製造番号の台帳にその完成検査年月日を記入していた。ところが予備審査に来た審査員は、トレーサビリティというのは、その製品を構成するボルト、ナットを含めた全部品の購入履歴が必要であると指摘した。ところがKA社には、顧客からそのような要求は一切ない。
 規格には、「トレーサビリティが規定要求事項に含まれる場合、供給者はその要求事項の範囲内で」とある。この「範囲内で」という意味を審査員が理解できないとこういう指摘となる。
 ISO9000―2:1997の指針では、「トレーサビリティは、追加コストがかかるので、契約の中で規定される場合は、品質記録の範囲を述べるべきである。」と説明がある。すなわち、トレーサビリティには、「深さ」や「広さ」でバラエティがあるのである。自動車は、2万点の部品がある、しかし、すべての部品にトレーサビリティはない。重要部品だけである。それが「範囲」の意味である。
 KA社の製品は、自主製品なので、自主的にトレーサビリティの範囲を決めているに過ぎない。その根拠は、材料や部品は、カタログ品やJISマーク品を使っているので、「材料や部品の範囲まで」のトレーサビリティでは不要である。「組み立ての検査日までの範囲」で十分に無駄なコストをかけないでトレースできる。これを強調したので、最後に審査員は不適合を取り下げた。
3.台帳を文書扱いとする指摘
 KA社には、いろいろな台帳がある。設備登録台帳、資格登録台帳、計測器登録台帳などである。これらの台帳は、登録する事実が発生すると逐次、責任者が各行を承認して登録する。したがって、通常、下が空白であり、登録の事実があると埋まっていく。ところが、審査員は、これらの台帳は「文書」であるので、「4.5.2 文書及びデータの管理」に含まれ、改訂の管理をすべきであると言い出した。そして、台帳の右上に承認欄を作り、ここに承認印を押すべきであるとした。そうなると、台帳機能は不可能である。何故なら、追加する行が発生するたびに右上の欄に承認印を押し、頁を変えなくてはならないからである。
 経理の金銭出納帳も台帳であるが、これも記録である。これを文書扱いにすると、記入の都度、承認印を右上に捺印し、ページを変えなくてはならない。当然、KA社は拒否した。これは、典型的な文書と記録の混同である。2000年改訂でもめ、ようやく、用語定義に「記録は、通常、改訂管理の対象とならない」となったのである。それは、こういう審査員の防止のためであると言える。
4.引き合いに関する活動が契約内容の確認の手順に含まれていないという指摘
 これも意味がない指摘であった。何故なら、引き合いは、顧客の契約書や注文書がないので、受諾前の確認ができる対象となる書類がないからである。この間違いは、よくある。それは、「4.3.2 内容の確認」に「見積仕様書の提出前の確認」とあるので、引き合いの見積書も含まれると勘違いして審査するからである。とろが、よく規格を読むと「次の事項を確実にするために」というのが前提にある。その事項とは何かというと、a)〜c)の3項目である。そうなると、見積仕様書は、b)にしか登場しない。
 すなわち、見積仕様書の提出前の確認は、b)のためであり、契約書や注文書が来てそれとの差異が解決しているかどうかの確認である。当然、注文書の来ていない引き合いとは照合のしようがない。
 大体、この「契約内容の確認」の確認は、87年版のときは、日本語訳は「見直し」であった。すなわち、注文が来たものを社内手配する前に「再チェック」して、川上でミスと防止しようという意味が根底にある。自分の会社に注文が来るか、別の会社に行くかもしれない引き合いに、「確認」や「見直し」は不可能であるし、意味がない。これもKA社はシステム修正不要とした。