K氏の寄せた書評「くたばれ!ISO」森田勝著・日刊工業新聞社刊・その3/3
(H19年3月3
週号)

(先週号に続く)
10.マネジメントレビュー
142頁に「本当に1年に1回でいいのか」というタイトルがあります。
著者が指導した会社は年2回であったのに対して、審査員から「年1回で十分です」とコメントされ、これに対して、著者はむしろ、回数を増加すべきであるとしています。その理由は企業を取り巻く情勢の変化がはげしく、経営判断は迅速にすべきだから、マネジメントレビューもそれに対応して回数を増加すべきとしています。
これは問題が起きたときの是正処置などの対応とマネジメントレビューの役割を混同しています。
企業を取り巻く情勢に迅速に対応していくことは当然ですが、それに没頭していると大きな流れを見失うので、一歩、日常のゴタゴタから引き下がって自分のシステムを見直せというのがマネジメントレビューの趣旨でしょう。だから「定められた間隔」とあるのです
(このHPのISO9001項目別分類5.「マネジメントレビュー問題続く:H16年3月4週号」及び「マネジメントレビューの運用:H18年6月3週号」参照)。

11.設計の妥当性確認
147頁では7.3.1の要求の「各段階に適した妥当性の確認」の意味が分からないとしながら、150頁には、図5.4でデザインレビューの例として設計試作、生産試作、量産試作の3つの段階の例を上げています。設計の妥当性確認が試作を意味することを理解していないようです。これで企業から金をもらって指導ができるのでしょうか。
設計の妥当性の確認は、ISO9001以前から産業界では試作としてやっていることです。それがISO9001に吸収されただけですから、著者はその基礎的な常識を知らないことを示しています(このHPの統合システムコーナーの「U.統合マネジメントシステム・マニュアルの作成方法(3)」参照)。

12.校正
157頁で、ノギス、ブロックゲージ、ガラス温度計の校正を目視による歪みの確認に置き換えたとあります。しかし、これは校正に置き換えることは不可能です。ISO9001では94年版では点検と校正、2000年版では、検証と校正と区別しています。
初歩的、かつ、致命的な知識不足と思います。

13.トレーサビリティ
170頁に「トレーサビリティが要求事項となっていない場合」の例をいくら考えても思いつかないという説明があります。ところが、93頁にチップのリールの例があげられていて、プリント板に搭載されるとバラバラで個品のトレーサビリティが分からなくなるという事例の説明があります。矛盾しています。

14.開発の誤解
173頁には著者は開発の意味を「研究・開発:R&D」などで使う開発としてしまい、ISO9000:2000の用語定義「3.4.4設計・開発」を無視しています。
JISQ9001:2000の巻末の解説2.5のj)では開発は「研究・開発」でいうところの開発と異なると明記しています。その無視です。

15.顧客満足度
177頁に顧客満足度にアンケートなど用いることを示しているが、これは一つの方法にすぎません(このHPのISO9001項目別分類コーナーの「顧客満足の測定方法:H16年6月5週号」参照)。
また、ISO9001以前からあるCS運動などの顧客満足とISO9001:2000の8.2.1でいう顧客満足とはかなり違うことをJISQ9001:2000の巻末の解説2.5のi)で説明していますが、著者はこれらの解説も無視しています。

16.総括
以上のように、この本は読者が相当勉強していれば、反面教師としての役割が最低期待できますが、そうでないときは、読者に正確なISO9001:2000の知識を提供せず、混乱を与えることになると思いました。
ISO9001:2000が発行されてから、数年たつのにこういうレベルの本がまだ、出版されるということは、最近のISO9001:2000の信頼性のなさの問題と関係があるのでしょうか。