審査員と改善(11月1週号)
 ある50人くらの中小企業に予備審査に来た審査員は、審査開始の挨拶で、「ISO9000はただ、取得するだけではだめである。ISO9000要求は最低要求だから、もっと、レベルの高い、改善されたシステムを確立して、企業の業績に貢献するようにすべきである。」と言った。改善の提案である。
 改善については、審査員は企業側の積極的な要求がない限り、禁じられている。理由は、そのような訓練もされておらず、能力を期待されていないからである。そして、審査員個人の意見とISO9000の要求とが異なる恐れがあり、国際規格共通規格の意味がないからである。
 これは、ISO9000先進国のイギリスでの失敗の経験から来ているようだ。しかし、ここの社長は、不勉強で、そういう審査システムであることは理解していなかったので「そうだ。企業に貢献するISO9000でなくてはならない。今日は先生の指摘を受けて、どんどん、取り入れなさい。」と、挨拶をした。審査員は、その言葉に乗って、ISO9000の要求にないことを不適合として次のような改善要求をした。
1. 品質管理委員会を毎月、開催しているが、これはマネジメント・レビューにもなるので、その旨、マニュアルに書くべきである。すなわち、マネジメント・レビューの回数を年12回に増加すべきである。「企業側のつぶやき:中小企業なので、社長はいろいろな機会に管理者や作業者に指示をする。これはマネジメント・レビューではない。意味のない記録が増加するだけである。」
2. 1日だけの訓練で内部品質監査の資格を与えているが時間が少ない。ISO10011を参考にすべきである。できたら、当審査機関は別に内部品質監査員コースがあるので、参加さすことが望ましい。「企業側のつぶやき:外部の内部品質監査コースを受けても、当社のような中小企業のメンバーでは、頭痛だけで帰ってくる。高い講習費用の無駄である。中小企業は毎日、顔を突き合わせているので、内部品質監査をしているようなものである。これは、改善でなく審査機関の宣伝である。」
3. パソコンを使って、契約内容の確認をしているが手順化してやっていない。「企業側のつぶやき:このパソコンは、経理の受注統計用で、契約受諾前には使えないものである。改善に当たっては、よく調査してから案を出すべきである」
4. 乾燥装置が日常点検でだけで、工程能力の維持が不十分である。「企業側のつぶやき:品質上、重要な炉でないのに、どうして、無駄な保全コストをかける意味があるのか。」
5. 品質マニュアルの現場配付がない。「企業側のつぶやき:当社は、全工場、歩いても2〜3分で隅まで行ける。配付したら配付台帳管理が増える。意味のないコスト増である。現場では、品質マニュアルは毎日、読むものではない。書類の整頓上、配付は良くない。それより、図面をしっかり見るべきである。」
6. 基準書に目次と各ページに連番タイトルがあるが、頁がない。「企業側のつぶやき:項目タイトルが連番なので分かる。こういうことは品質や改善に影響がない。当社は、国語の塾ではない。」
7. 設計審査に製造課が参加していない。「企業側のつぶやき:中小企業では、製造課長も営業課長も皆、仕事のすべて知っていないと仕事が進まない。ましてや、この場合、営業課長と製造課長は兼任である。」
8. 作業手順書にテストすることは書いてあるが、回数、数量が書いてない。「企業側のつぶやき:この装置は、小ロット生産のため、断続的に仕事をしている。固定的な回数、数量は意味がない。電源ONのたびにテストすると書いてある。」
9. 材料切断が作業手順書通りに作業をしていない。「企業のつぶやき:どちらの作業が正しい作業かのコメントのほうが重要である。」
 結局、「文書の手間をかけろ」「文書をキチンと書け、量を増やせ」「文書の配付を増やせ」「文書と作業の内容を一致せよ」というだけで、品質に影響もなく、企業に貢献する提案はゼロであった。むしろ、無駄な手間を増加させる提案であった。
 この企業は、私は、不良を減らし、かつ、コストを下げるために、小ロット生産、端材の有効利用のための分類保管、出荷ミス防止のための台車利用を進めていたが、これに関するような提案は審査員から、ゼロであった。
 この審査員の言う、「改善」とは、大手並みの過剰な文書や、きれいに書いた文書の作成、現場の作業と文書の一致だけであった。その文書の無駄は考慮外であった。書いてある作業内容が改善の余地があり、もっとこのように改善すれば、品質を向上できるという考えは皆無であった。これは、会社では、品質保証部長が、努力して、誰も読まない文書をたくさん作ることが品質管理システムの「改善」と思っていることと同じである。これは改善でなく、改悪であることに気がつかないのである。
 2000年版は、改善は避けられない。しかし、「品質管理システムの改善」ということになると、書類の改善(増加と精密化)となりそうである。そのような品質管理システムの改善は無駄を生む危険性をはらむ。「コア活動の改善」に焦点を合わすべきである。
 審査員によっては、「改善」の意味が、一般の改善と逆のことがあるので、気をつけるべきであろう。