弊害となるISO9000導入例(H12年11月2週号)
1. 顧客クレームの無関心
 Z社は、100人くらいの部品メーカーであった。管理責任者は、30才台で社長の息子さんであった。ISO9000取得は、得意先の要求であった。準備をすすめている途中で、品質保証課長が、ときどき、多忙でISO9000準備の打合せ会議に出られないことがあった。理由を聞くと、顧客のクレームが発生し、対策書を顧客に提出するので、その作成に時間をとられているためであった。私は、それこそ、ISO9000準備の中心課題とすべきであると言ったが、管理責任者は関心がなかった。クレームの個別対応とISO9000とは別だという認識が強かったし、もともと、そういう追及は得意でなかったようであった。
2. 品質目標の混乱
 ISO9000では、品質目標の設定を経営責任者の役割として要求している。そこで、各部門の年間の改善目標を作成し、社長がまとめることになった。しかし、出てきた案を改善コンサルタントとして、私がチェックしたら、技術的な具体性がなく、スローガン的なものが多く、これでは、目標達成が不可能であることは明らかであった。数回、行ったり来たりの修正があったが、完全に理解されなかった。審査では、不適合にはならないことなので、私も、適当な内容でコメントは止めた。
3. 1個流しの意味のないスローガン
 このスローガン主義は、工場に大きく掲示されていた「1個流しの徹底」で明らかであった。何故なら、その工場では、1個流しを進めている事実がなかったからである。それを行うには、技術的な検討を進めたり、設備を改造したりという長期の具体的な経営資源の投入が必要であった。しかし、それをしないで、外で聞いてきたハイカラな言葉を、そのまま、消化しないで、現場に掲示していただけであった。これが、品質目標の設定のあいまいさに現れたのである。
4. QC工程表での妥協
 部品メーカーであるので、膨大な部品点数を短期間で製造しなくてはならない。しかし、多くの部品は、共通の機械を使っているので、工程は共通性が高い。したがって、品質計画書(QC工程表)は、製品群ごとに作成し、部品別の工程指示は、従来からの「作業指示票」で行うようにした。
 ところが、予備審査で、審査員が全部品ごとにQC工程表が必要であると要求した。事務局は、「作業指示票」で十分であると説明しようとしたら、社長は「部品別のQC工程表がないから、最近、クレームが多いのだ。」と言って、審査員の指摘を呑んだという。かっこうのよい書類の整備が、高度の管理システムであるという誤解が、その社長にあった。それは、現場に掲示された「1個流しの徹底」という、かっこうのよい形だけのスローガンが、何か良い管理しているという感覚を持つのと、同じ発想であった。
 いずれにせよ、誰も見ない膨大なQC工程表の作成とその人件費とが発生することになった。これは、ISO9000は、うまく使用しないと会社の弊害になるという事実を示した。
5. カローラの開発話
「日経ビジネス」10月30日号で、トヨタ自動車のカローラの新車開発に関する記事がある。そこに、こんな記事がある。トヨタのチーフエンジニアが下請けに行ったとき、ペンキを塗る刷毛を見つけた。何気なく「いくらで買ったのと?」と聞いたら、作業員が「100円ショップで買った」という。そのチーフエンジニアは「うちの生産現場では、何千円したはず。こんなところにも無駄金を使っている」として、その話をプロジェクトチームの議題としたと言う。乾いた雑巾をさらに絞ると言われるトヨタでも、まだ、この「学習」の姿勢がある。
6. Z社の無駄意識
 Z社では、ある外注からの納品は、全数選別し、不良品は修理のため、返品していた。しかし、返品伝票は発行せず、修理の再納入を確認しないで、支払っていた。試算したら、月、百万円くらいの損失であった。これを発見して、経営者に言っても、なんらアクションがなかった。上記の、トヨタの話とは違った世界であるこのZ社には、100円ショップを使うような、細かい知恵を生かそうとする経営がないようである。それが、無駄なISO9000につながっている。
 ISO9000は、経営者のテストになっている。無駄なISO9000になるのは、経営者が、真の経営をしていないことを示してしまう。そして、ISO9000登録に成功しても、経営向上にはつながらないか、じわじわと悪化につながる恐れがある。