最新書評2冊 (H13.6月4週号)
1. 「小説・デミング賞」徳丸壮也著・東洋経済新報社刊
 (1)デミング賞批判
 ある自動車企業をモデルに、デミング賞やTQCの裏話を書いた小説である。実際の人物をモデルにしているという。実名も登場して生々しい。著者はこの小説を書くために、いくつかのデミング賞を取得した企業を訪問し、取材したようである。デミング賞の問題点は、アメリカでのデミング賞第1号のフロリダ電力の失敗は、MITのレスター教授の「競争力」でも指摘されている。日本でもデミング賞は裸の王様のようである。
 日本のある審査機関の人が、ISO9000sが高校級であれば、デミング賞は大学院級であると言っていたが、どういう意味の大学院なのであろうか。品質と関係の無い文書過剰、官僚制度の複雑さをいうのであろうか。
 (2)品質とコストの誤解
 著者は専門家でないのか、基礎的な知識で問題であるように感じた。例えば、品質とコストの関係である。著者は品質を向上すると、コストが上がるという一般論を信じているようだ。しかし、「品質工学」やデミングの考えは、品質向上はコストダウンになるとしている。事実、品質工学の創始者である田口氏は、これはコストダウンの方法であるとして、品質工学という名称は誤解されやすいと言っている。
 (3)デミング賞の誤解
 この小説はデミング賞の取得やTQCは、QC(品質管理)でなく、リストラや企業の権力闘争の道具となっているとしているが、デミング賞やTQCは、会社業務全体のシステムがからむので、当然、単なる統計的手法やQCサークル活動だけで終わらない。
 QCサークルの失敗例は実際に起こりえる内容であるし、10億円かかるというデミング賞の費用も世間話的に言われていたことである。しかし、それに伴う文書過剰などの実務面での問題点はほとんどふれていない。それにしても、ISO9000sとか、賞のつくものとかは、どうして、このように多くの問題を現場にしわよせするのであろうか。そして、効率を考えないのであろうか。不思議な共通した経営現象である。
2. 「ゴール」エリヤフ・ゴールドラット著・三木本亮訳・ダイヤモンド社刊
 (1)新規な理論は無い
 数年前、一時、日本でも騒がれたTOC(Theory of Constraints)の理論を分かりやすくするために小説にしたものである。アメリカでは200万部以上売れ、この本を翻訳すると、日本企業が真似をし、また、世界市場を独占するから、16年ほど訳を延ばしたのだと言う。しかし、それは著者の思い違いである。
 これは生産管理の本であるが、ネック工程など、当然のことである。どうして、これが新しい手法なのか、疑問である。日本では「手番システム」というのが伝統的にあり、それと山積み法で簡単にネック工程の管理はされていた。
 (2)MEの不勉強
  また、社内が空いているときに、固定費は考慮しなくよいという「埋没原価(sunkcost)」の考えなど、20年以上前に、ME(Managerial Economics)という体系がアメリカで生まれ、管理者の常識的なことになっていた。それがあたかも新しい考えや手法として登場するのはおかしい。インターネットが盛んな国で重要な情報が維持されないのはどういうことなのか。
  2年程前、日本のある大学の若い原価専門の教授に「機会原価(opportunity cost)と機械損失(chance loss)の違い」を質問したら、「同じと思います。」という返事であった。「機械損失にはゼロがあっても、機会原価にはゼロが無いでしょう。」とさらに聞いたら「勉強します。」で終わった。これもMEでは、常識語である。日本でもこういう状況である。
 (3)トヨタ方式の焼き直し
 在庫ゼロの考えやスループットの考えは40年ほど前からのトヨタ生産方式のマネである。
 「ゴール」とは、企業活動の目標である。それは「儲ける」ことだとこの本では新しい発見のように書いている。しかし、40年位前にあったトヨタの生産管理の社内テキストでは、その第1行は「徹底的に儲かる企業にする。(儲かることは徹底てきにやるが、無駄なことは一切やらない)」である。そこで、すでに明確になっている。
 この本の最大の弱点は、改善前のシステムの説明が無いことである。最初、この工場では、納期遅れが多かったというが、そのとき、コンピュータでどういう日程計画をしていたかが分からない。一応、計画があるから工場は動いているのである。納期遅れが多くても、納期に間に合っている製品もあったのだから、あるシステムはあったはずである。その話が一切出てこない。だから改善のポイントが分からない。
 TOCの考えは、日本のほうが理論的に進んでいる。しかし、日本人は、同じものでも和製より洋製を好むクセがあるといういつもの現象が出たようである。産能大の生産士コース2級や1級のテキストを読んだほうがはるかに体系的、実務的であろう。