トヨタ方式の再ブーム (H15年6月3週号)

1.郵政公社
T昨年のことだと記憶するが、大晦日に田原総一郎が司会する朝までテレビで、自民党の荒井議員が、日本経済の再生のためには、ヨーロッパで効果を出している「セル方式」を導入すべきであると発言していた。これを聞いて、この日以来、この人の言うことを信ずることができなくなった。何故なら、「セル方式」はトヨタ生産システムの代表的な手法の1つであって、それが80年代から90年代にかけてアメリカやヨーロッパに拡大したものであり、ヨーロッパが開発したものではないからだ。荒井議員は自国のことに無知であることになる。

その後、荒井議員は、郵政公社民営化で、小泉首相反対の先頭に立った。しかし、民営化されて、おどろいたことに、それとともに、トヨタ生産方式を導入することになった。そのために、トヨタから指導者が何人か入り、ストップウオッチで作業測定などして、改善を進めているという。先月、最初の人員削減に数千人が追加された。

2.中国に負けない製造業
先月の日経ビジネス誌に、中国の製造業に対抗して、依然として優位を保っている数社の日本企業の紹介があった。その強さのもとは、何社かは徹底したトヨタ方式の導入であった。松下の例もあったが、これもトヨタ方式の徹底的な実施であった。
最近、サンヨーであったかと思うが、「屋台方式」という生産方式を開発して成功しているという。これも「セル方式」の1つである。

3.ISO9001:2000との関係
94年版時代から、ISO9000のコンサルティングをしていて、無駄な文書のないシステムを支援してきたが、有効性のある品質向上のためには、ISO9001:2000の中の是正処置、予防処置の定着が重要である。私が指導した書類負担の少ないシステムでISO9001:2000を取得した企業でも、ほとんど、この是正処置、予防処置の徹底が不十分で、これにトヨタ方式の「真因追求」、「5W(5つのWhy)」、ポカヨケなどの手法を組みあせるとISO9001:2000取得の真の効果が出る。しかし、コンサルティングの目的がISO9001:2000取得であるので、取得すれば終わりである。しかし、実は、それからが重要なのである。
逆に、書類過剰でISO9001:2000を取得した企業は、書類に品質の魂が乗っ取られており、企業への官僚主義の導入による慢性的な効率低下、従業員のモラル低下、技術重視のへのブレーキという慢性中毒の弊害がボディブローのように効いてきている。

中国の人件費の20倍という日本人が、せっせと意味のないチェックリスト作成(ときにはごまかしで記入)や誰も見ない文書作成に時間をかけていては、中国に負けるのは明らかだ。20倍の知恵を、書類の作成でなく、仕事の中身の品質向上に向けるべきであろう。

4.新幹線の死亡事故ゼロと技術
5月の日経ビジネスに唐津一氏が、新幹線の無事故の歴史に誇りを持つべきだと書いていたが、無事故の理由が技術的な面の改善にあることを指摘していた。まず、従来の鉄道事故の原因の7割が踏切事故であったから、新幹線は踏切を作らなかった。次に多いのが、運転手の信号の見誤りで、これに対しては人が目で確認する方法をやめ、コンピュータ制御とし、自動ストップの信号機や集中制御装置を採用した。
運転手の注意(指呼点検、チェックリストなど)、踏み切りを渡る人の注意強化という発想で新幹線を設計しなかったから、無事故という品質向上になったのである。
それは、6月1週号の明治乳業と同じ「品質は設計を含めた工程で作られる」という技術発想である。