無駄な記録は、何故、増加するのか? (H15年7月1週号)

1.無駄な記録発生の根本原因
無駄な記録は何故、増大するのか。その大義名分は、「指示されたことが実施された証明(エビデンス)には、紙に書いた記録が不可欠である」というもので、記録がプロセス実施の最高の証明であると考え、紙の記録を増大させる。これが記録の「天動説」である。

これに対する「地動説」は、「指示されたことが実施されたことの証明は、最終結果の証明で十分であり、書類の記録を不要にするようなプロセス設計が必要である。」と考え、紙の記録は信頼性が低いので、減少させるようにする。トヨタのポカヨケ発想がそうである。新幹線の無事故の底にある考えもそうである(このホームページの「トヨタ方式の再ブーム (H15年6月3週号)の「4.新幹線の死亡事故ゼロと技術」参照)。

文書の天動説同様(このホームページの「基礎知識」の「2つの違った品質保証のパラダイム(paradigm)(H15年3月1週号)参照)、この記録重視はコスト無視、効率無視であるから、拡大すると大きな無駄を生む。正常な常識人は、効率意識があるから、無駄な記録をつけるのは馬鹿らしいと思う。だから、データ改ざんという従業員のモラル低下を起こすのが落ちである(このホームページの「審査/コンサル体験談」の「7割近くが書類の改ざんを示唆 (H13年6月1週号)」参照)。
東電の改ざん、病院のカルテの改ざんなど、「書類の記録はごまかすためにある」のが実状である。また、無駄な記録は、必ずといっていいほど、後からまとめて書いたりしている。ごまかしが発見されると、天動説では「ルール遵守をさらに強化する」という精神論強化の方向に対策が行く。真の解決とは逆方向である。

2.文書と記録のセットによるダブル書類過剰
指示されたことの証明が記録だから、記録だけ詳細では意味がない。指示するときに、この詳細レベルまで要求した指示文書が必要である。
例えば「東京駅に13時に行き、顧客と○○について打合せして、契約してくること。」という指示のとき、それを「会社に○○時に出て、電車は○○線の指定席○○に乗り、東京駅に○○時に到着し、○○ビルにある○○オフィスに到着し、受付けの台帳に記帳し――――」と詳細に文書にして、この1つ1つにチェックし、記録したら膨大な記録となる。すなわち、膨大な文書と記録がセットで発生することになる。
常識的に考えて、目的が契約なら行動の結果、締結された契約書が記録として十分である。

3.連続動作の点検リストの問題点
ある工場で、機械の日常点検リストがあった。項目が5項目程度あった。機械が大きいので、チェックリストを手にしては点検しにくいので、5項目連続で点検してから、機械をスタートし、その後、現場デスクでチェックシートの5項目を連続でチェックマークをつけていた。行動の記録でなく、本人の記憶の記録であり、信頼性は低く、意味がない。

4.予防効果のない始業点検項目
ある工場の機械の点検項目を見てビックリした。電源を入れてランプがつくかとか、スイッチが入って機械が動いたか、などいう項目ばかりであった。考えてみるとおかしな話で、電源を入れてランプがつくから機械が動くのであり、予定された作業ができるのである。仕事が予定通り終わったら、その生産報告が、機械が正常であったという記録でもある。その機械はほとんど、故障しないから、馬鹿らしいチェックである。聞いたら、多忙なときは、後から数日分まとめてつけているということであった。
本来、機械の始業点検は予防保全の一環として意味がある。これに対して、事後保全といって、故障してから修理するほうが経済的な場合がある。ところが、電源を入れてランプがつくかとか、スイッチが入って機械が動いたか、などいう項目は、もし、つかなかったなら、修理となり事後保全で予防の意味がない。点検者が正常なセンスを持っていれば、無駄だと思うから改ざんとなり、モラル低下を起こす。そして、本当にチェックすべきことをしなくなる。

5.「異音」の意味のあいまい性
「機械を動かして異音がしないこと」というチェックリストが多い。これは、まだ、故障ではないが、前兆が出ているということで、予防の意味がある。しかし、機械は正常でも音を出す。だから、「異音」だけでは抽象的で意味がない。もし、誰でも分かるような「異音」であれば、故障である。予防のための「異音」ではない。
ある工場で、本当に予防保全に必要なら、「異音」では意味がないので、機械ごとに「ガタガタと音がしないこと」「ギーギーと音がしないこと」「キーキーと音がしないこと」というように明記し、「異音」という言葉をなくした。

6.チェックの増加は効果的な対策か
ある食品工場では、配合材料は制御盤にある数個の材料ボタンを押して製品別に選択する。あるとき、間違えてボタンを押し、味のテストでミスが発見された。対策は、2人でのチェックリストによるダブルチェックであった。しかし、朝の忙しいときに、この対策は再発しかねない。ダブルチェックは責任もあいまいになる。私はとりあえずの対策として製品別のカバーを作り、このカバーを制御盤にセットすると、不必要な材料のボタンは隠れて、押せないようにし、かつ、このカバーをセットしないと機械がスタートでないないようにし、ダブルチェックをやめた。
なお、今週の息抜きコーナーも参考にされたい。