審査とコンサルティングの違い (H15年8月1週号)

1.このホームページの読者S氏よりのメール
「私がISO9000の審査員を目指した動機のひとつは、在職中に、審査員の言動に疑問を持ったからであります。書類と承認のハンコが山ほどとなり、マニュアルや関連標準が審査員を喜ばすだけのものとなり、大半のものが二重管理せざるを得ない状況であり、ISOによって会社が滅ぼされるという危機感を持っていました。
幸いに、現場を含め、審査対応を工夫して(軽欠点をいくつか用意しておく)、実務にはあまり影響がなくなるようにしました。このような状態の審査を少しでもなくすように、自分なりにできないかと思って、今、がんばっています。

下記のQ&Aは、ある研修会で現職の主任審査員の方との討議の中での質疑です(私が回答するA側です)。要は、私がコンサルとの違いを理解していないから合格点をやれない、ある本に三点書いているから、それを自分で探して勉強しなさい、と言われた内容です。私には理解できない面があります。両者の違いを教えていただけませんか?

Q:審査員とコンサルタントとの違いをどう思うか。
A:審査員は、規格への適合性を事実に基づき評価するのが任務です。コンサルタントは認証取得の準備段階から取得後までのサポートを行えます。つまり、QMSの構築からその運用・改善までのPDCA全般にわたり指導できる立場です。
Q:それは、審査員も同じだ。また、単なる規格への適合性の審査だけになってはだめだ。具体的に、どういうことが、コンサルティングになると思っているのか?
A:「こうしなさい」や「こうしたほうがいいですよ」といった内容です。
Q:付加価値のある審査とはどういうことと思っているか?
A:お互いが仕組みを良くする活動という共通認識の下で行われる審査であり、QMSの改善につながる本筋での評価ができ、そのことにより企業さんが改善意欲をより向上していただけるような審査だと思います。
Q:そういうことでは、適合性の審査だけになってしまうのではないか。
A:コンサルになるような発言は基本的にはしませんが、企業さんからの要望しだいでは、自分の経験から、複数の事例を説明し、企業さんの責任で選択し限定していただくような援助をすることはあり得ます。
Q:そのような抽象的なことではいいとも悪いともいえないなあ。ちゃんと経験をつんで喜ばれるようにならないといけない。

Qのコメント:経営者が望んでいるのは、利益を確保することだ。利益を出さない会社は存続できない。ISO9000に利潤を生むことを期待しているのだから、そのような観点での審査が必要だ。ISO9004の考え方を反映する形の審査も必要だ。」

4.私の回答
歴史的に言うと、審査員が企業に付加価値をつけるという考えは、ISO9000以前、イギリスのBS5750第三者審査時代にもあり、検事が弁護士になったり、審査員にビジネス改善能力が無かったりで、失敗しています(セドン氏著「こんなISO9000はいらない」参照)。ですから、通常、イギリス式の審査員の基礎的なトレーニングでは、「不適合」と「助言」は厳密に区別するように教えられます。これは、ISOの監査の指針、ISO10011-1や、今度改訂されたISO19001の監査の指針にも反映され、明記されています。
ISO9004:2000も審査用に使わないように、ISO9001:2000の序文で明記されています。
したがって、一言で言うと、この主任審査員は、ひどい審査員ですね。正規の訓練を受けて審査員になったのでしょうか。この主任審査員に審査された会社は悲惨でしょうね。

あなたの会社が文書過剰で苦しんだのは、審査員がコンサルと混同した審査をしたからです。審査は、基準に合致しているかの審査ですから具体的には、shallが審査基準です。shallにないことや、規格で決めていない文書やシステムを要求し、あなたの会社が、疑問を持たずに従ったから文書過剰になったのです。
付加価値が書類作成の付加を意味するなら審査員の「助言」は企業にとって改悪となります(このホームページの審査/コンサル体験談:審査員と改善(H12年11月1週号)及び「基礎知識」の「2つの違った品質保証のパラダイム(paradigm)(H15年3月1週号)参照)。
コンサルは、ISO9001:2000の要求にそって、その企業の個性にあった「無駄のない」システムを設計する行為です。審査員は、それがISO9001:2000の基準にあっているかを審査するだけです。よく例にあげられるのは、検事と弁護士の関係です。
だから、フェアな審査のため、同じ企業で審査員とコンサルタントは兼任できません。JABでは、同じ審査機関で同じ企業に対してコンサルをして、別な人が審査してもフェアでないと警告を発しています。
こういう、審査員から企業を守るのも、コンサルタントの役割です。
もし、付加価値をつける「助言」をするなら、無駄な書類を減らす助言をしてください。実際にそういう審査員がいました。その人は、企業の管理責任者出身で、審査員との対応で苦労された経験があったとのことです。

企業に無駄な書類を押し付けないフェアな審査員として活動されることを期待しています。