| 1.エビデンス(客観的な証拠)の無い指摘
中小企業のV社にB審査機関のS主任審査員が予備審査に来た。V社では、法規は改正があるので、マニュアルでは2ヶ月ごとに総務課長がチェックすることになっている。総務課といっても中小企業なので、総務課のISOの実務は全部、課長がやっている。
S審査員は「システムがスタートしてから、3ヶ月立ったけれど、本当に法規の改訂をチェックしているの?」と聞いた。課長は、「皆、チェックして、今回、改訂は無かった。」と言った。審査員は「そのやったというエビデンスとしてのハンコなど押してある記録はあるのか。」と聞いた。課長は「そのようなハンコの捺印はないが、私がやったので明確である。信じないなら、改訂のあった法規を明示してもらいたい。」と反論した。
この問答は、S主任審査員が、審査員資格取得のとき、訓練を受けたカリキュラムの内、2つの基本が守られていないことを示している。
(1)監査基準に無い無駄な記録の要求
1つは、意味のない記録要求である。監査基準であるshall要求にも無い。書類記録がやったことの証拠であるという典型的な天動説発想(このホームページのH15年7月1W号参照)である。もし、ハンコを押してあるなら、かえって疑うというのが本当の審査である。それを今、データ改ざんで懲りた東電が対策としてやっている。「ハンコを押してあれば安心だ。」というのは、ごまかしが容易であるというシステムである。この手は利口な子供でも考える常識的な人間心理のである。
(2)エビデンスの不足
もう1つは、この審査員は、逆にエビデンス(客観的な証拠)重視という審査の基本の意味を理解していない。エビデンスを捺印と思っている。課長と「やった、やらない」の水掛け議論は、審査テクニックとしては幼稚で、時間の無駄である。
2.正規の審査方法
きちんとした審査員は、法令の改訂があったかどうか、先に自ら調べ、「こういう法令に2箇所、改訂があったではないか。」と示せば、水掛け論にならない。明確な不適合になる。これを「エビデンス」というのである。その対策をハンコ捺印でやるかどうかは、企業側の自由である。これは、「審査上のエビデンス」と言わない。
したがって、審査員資格がある以上、水掛け論を避け、黙って、法令を調べ、改訂がないなら、コメントはパスする。それが審査の基本である。
これは、審査員資格取得の際のトレーニングで教えていることで、下手な指摘をすると、トレーニングでやりこめられる。それで、学んでいるはずである。
3.S審査員の問題点
S主任審査員は、この基本教育を受けていないのか、すでに300社近い会社を審査したと豪語しているので、300社に及ぶ会社がペコペコして対応したため、いつのまにか、その基本を忘れ、対等な審査でなく、横柄な審査姿勢が身についたのであろう。
V社で、この審査員に「不適合と助言を明確に区別するように」と要請したら、一応、区別をしたという。ところが「区別するのは大変ですね。会社によっては助言を好むところがあるのです。」と言ったという。好んでいるのでなく、企業側が腹の底では馬鹿にしているが、表面的にペコペコしているのに気がつかないのである。人間の心理を読めないマネジメント経験ゼロの審査員である。
4.弊害の拡大
こういう審査員が問題を起こしているのは、国際的なようで、このホームページの審査/コンサル体験談のH14年7月2Wとその臨時号でISO本部発行の「マネジメントシステム」誌を抜粋して、アメリカの例が掲載されている。
ここに次のような記事がある。
「16年間、審査の場にコンサルタントとして立ち会ったが、ほとんどの審査員は審査だけでなく、アドバイスをし、ISO9000規格以外の自己流の規格をでっちあげ、記録をほとんど見ず、早く帰る(これが普通だ)、など、など。
良い審査員でもアドバイスや助言を避けるのは大変なようだ。それが難しいのは認めるが、だからこそ、高額な審査料をもらっているのだ。
通常、彼らの意見やアドバイスは文書に書かれる。しかし、それらはよく書いてないので、大抵、2、3日たつと誰もその意味が理解できない。
会社側は審査員に苦情を言わない。審査員が帰ってから、そのでっちあげの要求や意見に不満を言う。しかし、クレームを直接つけて、事を荒立てることは好まない。」
アメリカでもペコペコしている例があるのは、まさに、グローバルである。
最近、特に審査員の質の低下が問題になっているとして、審査員訓練の公的機関であるグローバルテクノ社の月刊誌「アイソムズ」9月号(8月25日刊)では、その弊害の事例特集を組んでいる。 |