| 最近、あるISOの専門誌を読んでいたら、「是正処置のための問題対応策の水平展開は予防処置とすることは『現実に起こった不適合』からの処置であるため、論理的な矛盾をきたし、認められない。」と決めつけている解説があった。この文章だけで終りで、どういう論理的な矛盾があるのか、論拠は不明確であるし、また、権威ある文献(ISO本部や関係者)を引用してもいない。これは、独断的な解説の特徴であり、慎重さが無いから間違いが多い。これも間違いである。
独断的な解説は次の2つの基本的な特徴がある。
@具体的な事例説明が無い。
A公認された権威ある文献の引用やそれからの論理的な説明が無い。
この専門誌の解説も上記の2条件を満たしていない。
ここに上記の基本条件にそって論拠を明確にして、この解説の間違いを指摘しておきたい。
1.ISO9000:2000の定義
ISO9001:2000は用語としては、最高の権威がある。この用語定義では、是正処置と予防処置の違いは単純明快で「3.6.4 予防処置」の参考2.で「是正処置は再発予防であるが、予防処置は発生を未然に防止すること。」とだけしか書いてない。この定義では、『現実に起こった不適合』など、もとになった情報の制約については、一切、ふれていない。広い内容である。
2.権威ある文献の解説
(1)ISO9000−2:1997の指針
予防処置は94年版から登場しているので、そのときのISO本部の解説でも登場する。この指針の「4.14.1」では「同じ原因及び状態が(是正処置だけでなく)予防処置に関係することがある。この場合は一定の型又は傾向が現れて、未発生の不適合発生の可能性を示唆するので、調査すべきである。」としている。『現実に起こった不適合』が予防処置につながることを明記している。 すなわち、水平展開である。
(2)「中小企業のためのISO9000:ISO/TC176よりの助言」(1996年版)
是正処置の例に、使用期限を過ぎた加工肉を使用した仕出し会社の例があげられている。
そして、予防処置の解説では、再度、この仕出し会社の例をとりあげ、加工肉の問題とともに、肉以外の他の惣菜に対しても潜在的な問題がないか、配送時期、保管条件、使用期限を調べ、予防処置を講ずることがあるとしている。すなわち、加工肉から『未発生』の惣菜への水平展開・横展開である。惣菜は、不適合は未発生であるから定義により予防処置である。加工肉の不適合という『現実に起こった不適合』の情報をもとにしていても、この本では惣菜の処置は予防処置として扱っている。
(3)「ISO9001:2000:Explained: second edition]ASQ刊(和訳なし)
著者Charles氏は、ISO9001:2000を書いたメンバーの1人でアメリカの代表である。
この解説では「ある製品のラインで是正処置をとっているとき、他のラインで類似の不適合が起きそうかを考えることは賢明なことであり、これは他のラインに対する効果的な予防処置になる。」としている。これは、現実に不適合が起きたラインの情報に基づいた、不適合未発生の別のライン製品への水平展開・横展開の例である。そして、『現実に起こった不適合』からの情報の場合も予防処置の例として明記されている。
3.個々の企業での対応例
「水平展開は予防処置でない。」という審査員もいる。この審査員と上記のような議論をしても、対応する品証部員が現場に精通していない場合や、直訳の日本語に弱い中小企業の管理者が対応する場合、神学論争になりやすい。これは94年版のときから起きている。
議論で、混乱している1つの原因に、原因(プロセスなどの不適合)と結果(製品の不適合)の混乱もある。そこで、品質マニュアルで定義する方法で解決している。
(1)地質調査会社の例
この会社の「製品」は、調査報告書である。調査の依頼(これを物件という)は繰返し性がない。同じ土地で、同じ調査は無い。だから、物件レベルで是正処置は無い。しかし、ボーリングや報告書作成などのプロセスは繰返し性があり、是正処置があり得る。
94年版のとき、予備審査で神学論争が始まったので、下記のように、マニュアルに定義して、それ以来、神学論争はなくなった。
製品の是正処置:是正処置の定義はISOによるが、当社の業態に合わせて具体的に次のように追加して定義する。「是正処置は、再発防止対策なので、物件レベルでは繰り返し性がないため該当しない。しかし、業務レベルでは、繰り返し性があるので、是正処置がある。」
製品の予防処置:予防処置の定義はISOによるが、当社の業態に合わせて具体的に次のように追加して定義する。「業務レベルの是正処置は、次の新しい物件の予防処置になることがある。」
(2)自動車部品製造業者の例
これも、94年版のとき、同じ品番で、不適合内容が違うのに、不適合が発生すると再発としていたので、次のようにマニュアで定義した。
製品の是正処置:同一品番の同一不適合内容の再発予防策をいう。
製品の予防処置:ある品番のある不適合内容を予防することをいう。ある品番の是正処置が、別品番の起こり得る不適合を予防でき、損失防止となることがある。
4.水平展開・横展開の本来の趣旨
日本の自動車、電機業界では、ISO9000シリーズ以前から、ある不適合の発生から、その類似プロセスや製品にその対策を拡大し、予防につなげるという考えがある。これは「賢明なこと」である。これを伝統的に水平展開、横展開と言ってきた。これがトヨタの言う「真因」、「5W」、「3現主義」とならんで、日本製造業における革新的な品質向上の一因ともなった。あくまで基本は予防発想である。水平展開・横展開されるプロセスや製品そのものは、まだ、不適合が未発生なので、ISO9000:2000の定義によっても、予防処置になる。トヨタ方式同様、ISO9000以前からの日本の優秀さを知らないか、それにそって、改善した経験が無いための理解不足である。
5.ISO/TS16949の訳の問題
これはQS-9000の2000年版であり、自動車関係の規格である。ここでは、ISO9001:2000の「8.5.2 是正処置」への追加として、「8.5.2.3 是正処置の水平展開」という要求がある。ここでは「組織は、不適合の原因を除去するために、実施された是正処置及び管理を、他の類似のプロセス又は製品に対して適用すること。」とある。この元の英語はimpactである。これを水平展開と意訳している。この訳だと、ISO/TS16949では、水平展開を是正処置に含めていることになる。これはQS9000でも同様である。
しかし、この文の「不適合の原因を除去するために」を、予防処置を意味する水平展開と意訳するには、厳密には「『未発生』の不適合の原因を除去するために」でなくてならない。このISO/TS16949の下線の部分は、『発生した不適合』なのか、『未発生の不適合』なのか不明確である。明確でないのに、一方的に『発生した不適合』と解釈して、安易に水平展開という用語を使うと混乱を与えるだけである。ISO9000以前からの日本の優秀さを知らない訳である。
6.ISO9004:2000との関連
ISO9004:2000は、ISO9001:2000の解説書でもなく、審査用に使ってはならないとしているが、内容的にはISO9001:2000と整合性をもたしている。
ISO9004:2000の「3.定義」では、ISO9000:2000で定めた用語を使うとあるが、「予防処置」を使わず、「8.5.3 損失予防」として、「予防処置」という重要用語の使用を避けている。ISO9004:2000の「損失予防」は用語定義に無く、用語定義にある「予防処置」を全く使用していない。
この「8.5.3 損失予防」であげているデータは、過去の不適合の統計的や経験的なものが多い。すなわち、『現実に起こった不適合』をもとにしている。
結局、人は、基本的に失敗(『現実に起こった不適合』)から学ぶ。それは、歴史から、あるいは他人から、あるいは自己の失敗から学ぶ。学校も歴史的な失敗からの教訓の体系を教えて予防する。予防であろうと、もとは、さかのぼれば、すべて『現実に起こった不適合』がもとなのである。ISO9004:2000作成委員会では具体事例を挙げているうちにそれに気がつき、「予防処置」という用語を使って神学論争になうことを避けたのであろう。
他の問題と同様。実務的な常識がないと意味の無いISO9001:2000論争になることを示している。
なお、この問題は、94年版のときから繰返している。このホームページの是正処置と予防処置の境界線(7月2週号)、雪印問題と是正・予防処置(H12年7月3週号追加)、是正処置と予防処置のリンクと品質向上 (H13年10月2週号)、是正処置と予防処置の関係
(H13年12月4週号)ですでに一貫した考えで説明している。
|