キープロセス、プロセスアプローチ、PDCA審査・後日談
(H15年11月4週号)

新着ニュースの「キープロセス、プロセスアプローチ、PDCAなどの審査:H15年11月1週号」で問題になったA社のその後は、以下の通りである。

1.途中経過
(1)読者よりの情報
上記のホームページの記事を読んだ読者から、次のような趣旨の感想メールがあった。
「手元に〇〇協会発行の『ISO9001:2000品質マニュアルの作成』という解説本がありますが、この本に事例としてあげている2社はJ審査機関向けのマニュアルと思われます。100人未満の中小企業でも、これだけ膨大な文書量では、専任がいないと管理しきれないと思います。86人の金属製品加工業の例では、キープロセス、プロセスオーナー、プロセス毎の改善指標値がしっかりマニュアルに記述されています。
この本にあるような内容を、そのままマネをして、ISO9001:2000を導入し、その維持管理に苦しんでいる企業が多いのではないでしょうか。」
(2)A社の審査前の情報収集
A社が94年版のときから、J審査機関を選択したのは、顧客先の多くがJ審査機関でISO9000を取得していたからであった。
今回、J審査機関のキープロセスの問題点を知ったA社の管理責任者は、2000版に移行済みの顧客等に問い合わせたが、皆、キ−プロセスなどでかなり苦労しており、大手の会社になると、多くは、専任者がいて管理していた。そして、このコストの厳しい時代に、持続できないとの話しも聞いた。ましてや、30人程度の中小企業で、かつ、コストダウン要求の厳しい経営環境にある部品メーカーのA社にとっては、大変なことになると予想された。管理責任者は本審査に対して、JABワークショップ報告書などで対抗する腹を決めた。

2.審査結果
J審査機関による2日間の本審査が先週行われた。審査のはじめに、管理責任者は、JABワークショップの報告書とshallをもとに、キープロセスについての話しをした。審査員は、これはJ審査機関としては、助言であり、強制ではなく、審査員個人としてもあまり必要だとは考えていないような説明であった。
結局、キープロセス、プロセスアプローチ、PDCAなどによる審査は行われなかった。管理責任者がshallとJABワークショップの文書等を前面に持ち出したので、これが効果的であったようだ。A社は、泥沼におちいることを回避できた。
A社は、94年版のとき、管理規定、文書番号、配付台帳などの過剰書類があったが、これをゼロにして、スリムなシステムで2000年版への移行が認定された。
このように苦労の結果、システムをスリムにして、かつ、審査員ときちんと対応して守ったシステムは定着効果が大きいという特徴がある。最後に審査員はよく設計できたシステムであると評価して帰ったという。

3.プロセスアプローチの解釈
アプローチというのは、英和辞典で引くと「(問題への)取り組み方、研究方法」とある。プロセスアプローチは、2000年版ではじめて登場したが、どんなアプローチか、分かりにくいので有名である。もともと、ISO9000シリーズに、プロセスアプローチが出てきたのは、94年版に対する反論からである。例えば、イギリスのIQA(ISO9000審査員の公的訓練機関)が発行している「Quality World」の95年11月号では、
「現在の規格(94年版)は伝統的な機能(職能)、すなわち、設計・開発、製造、検査、出荷、据付け、サービスなどの区分に基づいている。しかし、2000年改訂版では、アウトプット品質に直接重要な関係のあるプロセスの管理に対応すべきである。これにより、管理者は規格をより効果的に活用することができるであろう。」
と2000年改訂では、94年版と異なるアプローチ(取り組み方)を採用することを強調している。これをプロセスアプローチと言ったようだ。しかし、世界的には、その頃、経営管理面では、別に明確な意味で使われ出していた。

例えば、1990年頃には、アメリカでは「リエンジニアリング革命」が盛んになり、「ビジネスプロセス」というアプローチによる画期的な改善例が発表された。すべて、顧客の要求から満足までのプロセスの改善であり、具体的にはリードタイムの短縮であった。
しかし、元をさかのぼれば、すでに、その30年程前から、トヨタの大野耐一氏は、材料などの購入費の投入から、それで作った製品の顧客からの売上回収までの期間を短縮せよとして、リードタイム短縮という生産に対する違った見方で改善を始めている。これがプロセスアプローチの源泉である。キャッシュフロー重視の見方でもある。そして、このアプローチから製造業では、1個流し、セル方式、シングル段取り、カンバン方式などのいわゆる、トヨタ生産方式が生まれる。

本来、プロセスという見方は、古くからある。「品質は工程(プロセス)で作られる。」も、検査重視と異なるプロセス重視のアプローチであるが、プロセスアプローチとは言わない。
プロセスアプローチは、設計・開発とか、製造とかの職能別の個別プロセスの管理や効率向上でなく、顧客の要求から顧客の満足までの一貫した連鎖・直結したプロセスに着目し、その効率と短縮をはかるアプローチをいう。そして、職能別のバラバラのプロセス管理に重点を置いたアプローチを、経営管理の歴史では「職能別(機能別)アプローチ」と言っている。これは、プロセスアプローチの反対語である。対比すると分かりやすい。

キープロセス、プロセスオーナー、プロセス毎の改善指標値をしっかりマニュアルに記述するというアプローチは、個別プロセスの明確化であり、連鎖プロセスという見方がないから、専門的にはプロセスアプローチでなく、機能プロセス別アプローチの一種である(このホームページの基礎知識コーナーの「プロセスアプローチの正確な説明:H13年2月2週号」「4用語の解説不十分による審査上の混乱:H15年1月5週号の4」参照)。