頭を使わない設計事務所?
(H15年12月2週号)

設計事務所の製品は、設計図面や設計図書関係(設計アウトプット)だから、これらの製品を作るプロセスは、製造の行為だから、ISO9001:2000の「7.5 製造及びサービスの提供」が適用され、「7.3 設計・開発」の管理が適用されないという説がある。これは、設計活動の本質の理解不足を示すに過ぎない。英語では、Design とProductionは、本質的に異なるので、これは日本的な混乱なのかもしれない。以下にその間違いを説明する。

1.設計と製造の違い
設計とは、創造的な仕事である。
設計のインプットから、いろいろなアウトプットの代替案を考え、評価・選択し、新しい仕様を創造的に考えるプロセスが設計プロセスの本質である。だから、設計プロセスの最初と途中では、製造と異なり、結果が明確に見えない。
代替案を考え、選択・評価で設計の質が決まる。個人差がある。そこで、設計改善の手法であるVE(Value engineering:価値工学)では、この思考過程のツリー構造の解析が中心をなし、関係者がその解析に参加し多くの知恵を出す(デザインレビュー)。

だから、VE経験者は、設計の本質を実務的に理解しているので製造との混同はない。しかし、VEはコストダウン手法でもあるので、コスト嫌いの品証担当者で知る人は少ない。

設計結果(設計アウトプット)は図面や仕様書に表現する。しかし、「絵に描いた餅」かもしれない。不安である。だから、実際の製品実現の前に、試作で現物にして確認することになる。これが設計の妥当性確認である。製造では、そういう不安はない。
最近、起きたH2Aロケットの打ち上げ失敗は、燃焼ガスが漏れたとき、高温にさらされる場所に制御系を置いた設計ミスが考えられるという。一品料理的な生産の場合、本番が試作とならざるを得ないこともある。この場合、不安は的中した。
VE的に言うと、何故、制御系を別な位置に置く代替案を考えなかったのか、あるいは、代替案があったとしたら評価で採用しなかったのか、となる。

一方、製造は、決まった仕様や作業手順を守って、一義的に製品に実現する。活動の最初からプロセスの結果としてのアウトプットの製品特性が明確に決定されている(「7.5.1のa)」。これらのアウトプットの特性や作業手順を勝手に変えることはできない。設計のように試行錯誤して行なわない。設計のように、途中で変更の多い創造的な活動ではない。
制御系の位置を含め、H2Aロケットでは、設計で決まった仕様通り、製品を実現しなくてはならない。

設計事務所は、設計という創造的な仕事をする場所であり、決まった仕様をその通り作る製造と本質的に異なる場所である。設計事務所で製造機能があるとすれば、設計した仕様書の製本作業など、決まった製本特性(観音開き仕様など)をそのまま、実現する作業などが該当するに過ぎない。

2.ISO9002の廃止の背景
ISO9000シリーズの94年版では、ISO9001以外にISO9002、ISO9003の3つの選択規格であった。選択は企業の自由であった。欧米では、ISO9000を取得しておけばよいということから、面倒な設計管理の要求のないISO9002の取得が好まれ、企業に設計行為があっても、これを除外してISO9002を取得して終わっていたり、設計事務所でも、ISO9002を取得したりすることが多かった。事実、当時、イギリスの認定機関であるUKASのディレクターが、ある設計事務所がISO9002を取得したことに対して憤慨していたという新聞記事があった。
いずれにせよ、ISO9001:2000に一本化した背景には、設計・開発の管理をキチンと扱い、ISO9000の信頼性を高めようという趣旨があったことは事実である。

3.日本での誤解
94年版では、日本は逆に、ISO9001のほうがISO9002より格が高いという解釈があり、企業によっては、無理に間違った製品設計を作り出して、ISO9001を取得した例があった。

例えば、顧客がスケッチ図を描き、これを受けて会社が図面に清書していると、清書行為を設計行為として審査機関が認めて、ISO9001として認定していた例が多かった。
しかし、これは定まった清書作業をしているだけで、製造的な型にはまった作業であり、創造的な設計行為ではない。設計の中心的な行為は顧客のスケッチ図の作成で終りである。すなわち、この企業には製品設計機能はない。この誤解がまだ、尾を引いているようだ。
もし、部品メーカーで、正しく、設計行為でISO9001を取得するなら、自動車部品のセクター規格であるISO/TS16949のように、工程設計に設計行為を適用するしかなかった。
私の場合、94年版のときは、部品メーカーは、工程設計を設計としてISO9001を取得するようにした。ISO/TS16949の先取りである。

CAD以前に、設計図をドラフターで手書きする時代があった。その当時、通常のアメリカ企業では、スケッチ図までが設計技術者の仕事、ドラフターで図面を書くのは、製造と同じブルーカラーの作業という分業であった。日本ではこの分業がなく、設計者がドラフターに向かっていた。私は、当時、アメリカでこの分業を見て、日本に帰ってから、設計部門の人に「もっと、設計本来の高度の頭脳活動に時間をとって、品質が安定する良い設計をしてもらいたい。」と多少、皮肉混じりに言ったことがある。ISO9000以前の話である。

ある有名な技術専門家が「engineer(技術者)の語源は、ingenious (創意工夫がある)であるが、中には、engine near(機械のそばにいる)ことが技術者と誤解して、頭を使わない技術者がいる。」と言っていたことがある。設計の本質をついている。