1.S主任審査員の指摘
H社は、94年版でISO9001を取得し、2000年版への移行審査を終わった。その際、L審査機関のS主任審査員がチェックした15部門の部門別の内部監査記録(1部門1枚で15枚)では、「不適合なし」が13部門であった。S審査員は、「不適合なし」の多いのが不満らしく、適合の審査だけで改善の提案が審査員の報告に見られないのは問題であるとした。そして、その不満を正当化しようとして、内部監査報告に改善点の指摘がないのは「8.2.2」のb)の「品質マネジメントシステムが効果的に実施され、維持されている」という内部監査の規格要求を満たしていないこと、また、そういう改善点を指摘できない内部監査員は、審査員としての「力量」に問題がある(「6.2.1」に関連)と指摘した。これは明確な不適合ではないが、改善されないと不適合になる恐れがあると文書で警告した。S主任審査員は、「効果的」という言葉を、改善指摘を含むと解釈したようだ。しかし、以下のようにこれは間違いである。
2.S審査員の指摘の間違い
(1)「効果的」の解釈違い
ISO9001:2000の「8.2.2 内部監査」のb)は、「品質マネジメントシステムが効果的に実施され、維持されているか」が満たされているかの監査を要求している。
この「効果的」の意味を審査員は、適合性監査だけでなく、必ず品質マネジメントシステムの改善も含まれなくてはならないと誤解しているようである。
この「効果的」は、原文の英語ではeffectivelyである。Effectiveについては、ISO9000:2000の用語定義では、3.2.14に「有効性:effectiveness」に定義がある。それによると「計画した活動が達成された程度」とある。すなわち、改善という意味はない。
内部監査のeffectivelyは、JISでは「有効的」と訳さないで、「効果的」と訳しているが、この日本語は「よいききめ」とか「よい結果」と解釈されるので、この言葉が一人歩きして、改善を含むと拡大解釈され誤解したのであろうか。あるいは、品質マネジメントシステムの「効果的」実施でなく、「効果的」な内部監査、すなわち、「『よいききめ』『よい結果』のある内部監査」=「システムの改善指摘のある内部監査」と混同したのであろうか。
「品質マネジメントシステムが効果的に実施され、維持されているかを内部監査すること。」をわかりやすく、かつ、誤解されないように言い換えると、「品質マネジメントシステムの実施状態、維持状態の有効性の監査を内部でせよ。」である。さらに、言い換えると「内部監査は、品質マネジメントシステムが、品質マニュアルで計画した通りであるかの適合性の組織内部の監視及び測定である。」となる。
そして、有効性の用語定義により、計画達成度が満点なら、「不適合なし」である。製品の監視及び測定の場合なら、製品が計画通りなら「良品・合格品」である。それで、終りである。改善は、次のように、8.5項目の問題であり、8.2項目では含まない。
(2)8.2の項目の本来の趣旨の無視
8.2の項目は、PDCAサイクルのC:Checkチェックのステップである。顧客満足度のチェック、マネジメントシステムのチェック、プロセスのチェック、製品のチェックなど、P:Plan計画通りであるかの客観的な監視及び測定である。
そして、次のステップのA:Act、すなわち、改善の段階での要求は、「8.5 改善」で扱っている。だから8.2の項目の内部監査には改善要求は含まれない。S主任審査員はその基本的なISO9001:2000規格構成を理解していない。
(3)内部監査の力量の誤解
8.2項では、例えば、「8.2.4 製品の監視及び測定」で明らかなように、検査員は、製品の合否(適合性)を明確にする力量が要求されるが、製品の改善提案の力量は要求されない。同様に、内部監査員にも品質マネジメントシステムの改善提案能力は、望んでもいいが、不可欠な力量ではない。必要な力量は、計画された品質マネジメントシステム通り、実施状態が適合しているかの判定能力である。むしろ、公平な監査のためには余計な能力がないほうがよいこともある。
3.S審査員の審査員としての力量が疑問
企業が品質マネジメントシステムを向上し、改善していくことが望ましいというこのS主任審査員の期待が大きいのが分かるが、審査と助言を混同しては、よい審査員の力量があるとはいえない。事実、S主任審査員は、「効果的」の誤解に見られるように、プロとしてISO9001:2000の規格を間違って理解している。助言と審査とを区別できない審査員は、このような間違った審査をしやすく、力量が足りない原因となる。性格的に謙虚さ、慎重さがない。審査の規格であるISO19011:2002の「7.2 個人的特質」の不適合でもある。
また、S主任審査員には、品質マネジメントシステムの改善を、内部監査に頼るという内部監査重視主義が背景にあるようだ(このホームページの2000年版項目別分類コーナー:8.2.2内部監査の「内部監査の役割(H15年10月5週号)」参照)。これも今回の解釈間違いの一因である。
4.品質マネジメントシステムの継続的改善
「8.5.1 継続的改善」は、品質マネジメントシステムの実施や維持の有効性の監視及び測定でなく、その継続的な改善要求である。すなわち、監査結果も1つの監視及び測定情報として提供され、これらを通じて品質マネジメントシステムの継続的改善を行う要求である。
|