マネジメントレビューの審査員の混乱した指摘(H16年1月1週号)

1.B社における審査結果
B社は、予備審査で、審査員からマネジメントレビューのインプットは、いろいろなデータや報告書で明確であるが、そのインプットとアウトプットの関係が明確でないとコメントされた。
また、アウトプットのa)の「品質マネジメントシステム(QMS)及びそのプロセスの有効性の改善」という項目に対応して、QMSにしぼって改善内容を記録していたが、「そのプロセスには、製品実現のプロセス(製造工程)も含まれる。」として、その有効性の改善のレビューも要求された。
B社は、QMSのプロセスは、文字通り、マネジメントシステムのプロセスであって、現場第一線の機械加工工程など製品実現のプロセスは含まれないと解釈していた。
むしろ、B社は、マネジメントレビューでは、c)の「資源の必要性」で、品質向上のため、新機械設備の導入を決めており、これは、製造実現プロセスの中心である機械工程のレビューとなっている。a)に製品実現が含まれるとするとc)「資源の必要性」とダブる。また、マネジメントレビューのb)では、製品の改善要求もある。これも製品実現のプロセスの設計活動とダブって矛盾する。B社は審査員のいう意味が理解できなかった。

2.コメント
(1)マネジメントレビューのインプットとアウトプットとの関係
マネジメントレビューのインプットは、ISO9001:2000ではa)からg)までの7項目ある。これをインプットとして、アウトプットを出すのであるが、これは、どのインプットがどのアウトプットに対応するという直接の関係は必ずしもない。
マネジメントレビューは、これらのインプットの情報をもとに、これらをミックスして、高次元の経営判断を行うものであって、それは、経営責任者の頭の中で化学反応のようなプロセスを経過する。アウトプットのどの部分が、どのインプットに対応するかという部品の組立のような単純な構成関係にはないのが通常である

(2)「QMSのプロセス」の意味の混乱
a)ISO9001:2000の序文
「QMSのプロセス」という意味に、機械加工工程などの製品実現のプロセスが含まれるのでは、という疑問が多い。序文では、QMSと製品実現システムとは密接に関係するが、両者は概念的に独立して、「補完」するものとして明確に分けている。しかし、ISO9001:2000の本文になると、このマネジメントレビューアウトプットのように、混乱している用語が登場する。
b)「4.1」の参考の説明
「4.1 一般要求事項」のa)では、「QMSに必要とするプロセス」とあり、「QMSのプロセス」としていない。『必要とする』と『の』が異なる。この参考に「QMSに必要となるプロセスには、マネジメント活動(運営管理活動)、資源の提供、製品実現及び測定にかかわるプロセスが含まれる。」として、製品実現のプロセスが含まれている。しかし、これは、「QMS『の』プロセス」の参考説明ではない。『必要とする』というあいまいな表現でなく、序文と一貫した考えで、「QMSとこれを補完関係にある製品実現システム」と言えば、明快であるのだが。
c)「7.1 製品実現の計画」の参考1
「特定の製品、プロジェクト又は契約に適用されるQMSのプロセス(製品実現のプロセスを含む)及び資源を規定する文書を品質計画書と呼ぶことがある。」とあり、製品実現の計画であるから、当然、製品実現のプロセスは含まれる。しかし、わざわざ、括弧内に書いてあるということは、QMSのプロセスには、自動的に、製品実現のプロセスを含むとしていない証明と言える。「QMSのプロセス及び製品実現のプロセス」と別にした表現に何故しないのか、不思議である。
d)「8.5.1 継続的改善」
ここには、製品実現プロセスに関係する技術的改善の継続的なものはなく、「品質マネジメントシステムの有効性の改善」にしぼられている。ここでは、品質マネジメントシステムと製品実現プロセスの技術的改善は区分されている。
別なC社で製品実現のプロセスと品質マネジメントシステムの区別を理解できない審査員が、「技術的な改善が継続されている記録がない。」と指摘したので、その会社の管理責任者が「規格は、品質マネジメントシステムにしぼって要求している。」というと、その審査員は慌てて、規格文を読んでいたという。
e)ISO9000:2000
「3.7.5 品質計画書」の「参考1」に「通常、これらの手順には、品質マネジメントのプロセス及び製品実現のプロセスに関連するものが含まれる。」 と明確に区別している。
このように重要な概念が、2000年版のISO9000ファミリーでは一貫していない。

(3)何故、2000年版で混同が発生したか?
a)94年版での品質システム要求事項と製品要求事項の明確な分離
上記のように、品質マネジメントシステムのプロセスと製品実現プロセスが混乱したような用語の使い方は、94年版にはなかった。94年版のガイドラインである「ISO9000ー1:1994:ISO9000規格の使用と選択のガイドライン」の「4.3 品質システム要求事項と製品要求事項の区別」では、明確な分離が次のように説明されていた。

「国際規格であるISO9000ファミリーは、品質システム要求事項と製品要求事項を区別している。この区別により、ISO9000ファミリーはすべての製品を供給する組織に普遍的に適用できる。品質システム要求事項は製品の技術的な要求事項に対して補助的(補完的)なものである。技術的な製品仕様や工程の仕様は、ISO9000ファミリーやガイダンスとは、別なものである。」
 
したがって、品質システム(2000年版の品質マネジメントシステムのこと)と個々の企業における製品実現システムのプロセスとは、明確に分離されていた。
例えば、実務レベルでは、設計に関する要求は「設計管理」であった。これが2000年版では「設計・開発」と項目のタイトルから管理が削除された。まさに製品実現プロセスそのもののタイトルになってしまった。中味は94年版と同じマネジメントの要求なのに。

b)2000年版からの混同発生の原因
この94年版での明確な分離が、2000年版になって混同を起こした原因は、2000年版で、PDCAモデルを使ったためである。PDCAの改善プロセスモデルをマネジメントプロセスとしたために、マネジメントの第2プロセスのとして、Doの製品実現システムのプロセスが直接含まれるような混乱を起こしたからである。実は、PDCAモデルでは、第2ステップのDoの段階では、マネジメント活動は、Controlとなり、製品実現のほうは並行して、製品実現活動が開始されるのである。この並行状態が明快でないため、混乱を起こしたのである。

その点、2000年版は、気をつけて、条文を読みこなすことが重要である。

この件は、このホームページの基礎知識コーナーの「品質マネジメントシステムは製造実現プロセスを含むのか?」(H14年10月4週号)「品質マネジメントのプロセスと製品実現のプロセスの関係・その2」(H15年2月4週号)「ISO19011:2002とPDCA 」(H15年4月3週号)を参考にされたい。