部品メーカーの製品に関連する法令・規制要求事項の明確化?
(H16年1月3週号)

1.2社での審査での指摘
N社、V社は、ともに部品メーカーである。顧客が設計した部品図面により、これを図面の品質要求通りに作るのが企業活動の目的である。
こ2つの会社は、直接関係がないが、興味あることに、2000年版の審査で、「7.21 製品に関連する要求事項の明確化」のc)の「製品に関連する法令・規制要求事項」に関しての手順がマニュアルで明確になっていないと指摘された。
N社は、この項目は“文書化した手順”を求めている項目でないので、文書だけで不適合になる項目でないと反論した。実際には、手順はゼロでなく、下記のように概要だけは書いてあった。
V社も似たような手順概要をマニュアルに書いてあり、同じように反論した。

7.2.1 製品に関する要求事項の明確化
営業部門担当は、顧客依頼書及び図面などにより、「見積り検討依頼書」を関連部門に発行し、検討会議を行う。この際、議事録をとる。その検討の上、見積書を作成し、顧客に提出する。この際、顧客図面の内容が概要だけを示してあり、当社で詳細の追加を行うときは、技術部は承認図を作成し、顧客に確認をとる。なお、新規品でも、従来品の類似性が高いと営業担当が判断したものは、検討会議を行わず、見積書を提出する。

2.N社の対応
(1)最初の対応
N社では、「当社は、部品メーカーなので、そのような法令・法規の制約は、設計を行う顧客で配慮するが、当社は業種的にはない。」と言った。すると審査員から、「『ない』という証明が必要である。」と言われた。そこで、品証部担当者が大変な努力をしてインターネットで調べたが、そんなものはない。一応c)について、「受注のたびにインターネットで確認する。」というようにマニュアルに追加した。
(2)マネジメントレビューでの対応
その後、N社はISO9001:2000を環境と統合するので、その依頼が私に来た。私は統合するISO9001:2000を読んでこの項目に気がついた。「実際に、営業担当は、受注のたびにインターネットで確認しているの?」と聞いたら、当然、していない。死んだマニュアルになっている。私は審査では、「ない」という証明は審査員がやるべきことであり、企業側の問題でないとアドバイスした。
丁度、マネジメントレビューがあったので、社長が次のようにレビューして、この項目を削除し、次の維持審査(サーべイランス)の審査でOKとなった。

当社は、部品設計の設計権がないので、製品品質について決定するとき、その法規制には、関係しない。したがって、顧客が設計した部品に関する法規制との関係をチェックする業務が伝統的に存在しない。それは、顧客が設計時に配慮して行っているからである。例えばジーゼル車の排気ガス規制などは、顧客の製品設計には関係するが、当社では、その結果として、設計された一部の部品仕様を決められた通り、作るだけである。これは部品メーカーとしての当社業務の特徴であり、審査員も業種別であるから理解能力はあるはずであり、自信をもって説明すべきである。
よって、このインターネットで調査するという非現実的な手順は削除する。

3.V社の対応
V社では、営業課長が、審査員から当然、c)について、質問があるだろうと予想し「当社では設計権がない。顧客がそういう製品の品質面の法令・規制はきちんとやっているはずである。顧客はISO9001:2000を取得しており、設計も含まれているので、信頼してよいと思う。」と説明して、審査をパスした。

4.養老教授の解説の連想
興味あることに、大ベストセラーの「バカの壁」の著者の養老教授が昨年末に発刊した「スルメを見てイカがわかる」という本で、似たようなことで次のようなことを対談で言っている。
「筑波山にアゲハチョウがいる。」ということは、標本一匹持ってきて納得する。しかし、「筑波山にアゲハチョウがいない。」というと、とたんに問題が起きる。「お前の採取方法が悪い。」「老眼だ。」「目が悪い。」となる。そこで「いない」という証明には、筑波山の地図に50メートル間隔にメッシュを作り、そのメッシュをしらみつぶしに調べ、メッシュごとに卵もなければ幼虫もいない、山椒もなければミカンもカラタチもないーーーーとやらなければならない。
これは「筑波山にアゲハチョウはーーーー」と言ったとき、すでに「いる」というイメージが先にあり、「いる」というと安心するが「いない」というと、頭の中のイメージをどうするのかとなる。だから「いない」の証明は「いる」より難しい。

この本で、共著の対談相手の茂木氏は「『ある』と『ない』は、意味の成り立ち方がそもそも非対称的な感じがしますね。」と言っている。

審査員に業種の常識と上記のような社会的な常識がない「バカの壁」がある場合、不毛の神学論争になる。N社はその泥沼に落ち、インターネットの「メッシュ」で調べまわったが、それはまさに泥沼にはまった例である。品質と無関係な無駄なシステム設計であった。