1.付加価値審査
(1)T審査員による予備審査
T社(従業員数約100人)は、L機関のT氏による予備審査を受けた。
T社は、審査の開始時、T審査員に「審査と助言の区分、不適合の場合に抵触するShallを明確にすること」を最初に希望した。そうしたら、「私はプロの審査員ですよ、そんなことは当然です!」とかなり強く言った。普段は穏やかな人であるが、かなり高圧的な言い方も多く、「私はプロですから」「以前大きな会社にいましたので」という物言いも何回かあった。勘違いしている部分を指摘すると、とたんにしどろもどろになり、すぐに声を張り上げて次の項目に移ることも多かった。
予備審査の報告書は、30項目ほどの指摘があったが、ひどいもので、2000年版の特徴である文書化要求がない項目まで手順書を要求し、報告書の99パーセントは、助言であった。不適合指摘もマニュアルの読み違いであった。助言も「不適合品報告書」に原因欄を設置すべきであるというようなものがあった。8.3と8.5の項目の違いを理解しない審査員資格を疑うような「助言」である。これがL審査機関のベテラン審査員だということだから、多くの企業がいかに間違った「付加価値」を「付加」されてきたことが推測できる。
(2)T社のクレーム
T社は、この報告書の項目ごとに、逐一、反論を書き、審査員の指摘に従えば、無駄な書類システムになるので、一切、システムやマニュアルを変えないという回答書を作り、クレームとして審査機関のマネージャーに提出した。
(3)L審査機関のマネージャーからの回答
「書面にて拝受いたしました予備審査にてご希望に添えなかった点がありました件につき、担当審査員に対しまして事実確認を行いました。
確かに貴社のご指摘の通り、ISO9001:2000要求事項のShall+αの指摘事項があることは事実であります。担当審査員としましてはチェックリストを使用した適合性にのみ焦点をあてた審査ではなく、今後の貴社のシステム改善のためにという意図の基で審査をさせて頂きましたが、結果的には貴社(顧客)のニーズに沿わない審査となりましたこと重ねてお詫び申し上げます。
弊機関としましては、日頃適合性審査のみでなく、付加価値のある審査を行い、受審組織の経営に寄与する審査を目指しております。結果として貴社のご希望に沿わないとのご指摘でありますので、貴社ご依頼に従い本審査は審査員を変更し実施させて頂きます。」
(4)T社の回答
「『適合性審査のみでなく付加価値のある審査を』というのは、聞こえはいいですが、規格よりも審査機関や審査員の考え方に合ったシステムやマニュアル作りを強要され、企業にとってはかえってマイナスになる結果となります。審査員のトレーニングや能力はそのような『力量』を得るには不十分であり、今回の予備審査で強くそのことを実感しました。」
2.コメント
(1)「付加価値ある審査」?
重装備の文書化が高度のシステム化と考え、これを押し付ける審査が「付加価値のある審査」なのだろうか?(このホームページの基礎知識コーナー「2つの違った品質保証のパラダイム」:H15年3月1週号、項目別コーナーの4.2文書化に対する要求事「無駄な記録は、何故、増加するのか?:H15年7月1週号、「客船火災の真因と是正処置」:H15年11月2週号、審査/コンサル体験談コーナー「審査員と改善:H12年11月1週号」参照)。
「付加価値のある審査」なら企業の実態にそったシステムを創造的に設計するコンサルティング訓練を受け、改善効果をあげた経験があり、かつ、中小企業でも最低1週間ほどの調査、分析をした上でないと無理である。トヨタが、郵政公社の依頼で改善(付加価値の提供)をしたとき、まず、ストップウオッチを片手に現状調査したことを学ぶべきだ。
(2)イギリスの失敗
イギリスはISO9000先進国だから、第三者審査が盛んであった。だから、1980年代に「付加価値ある審査」のトラブルも経験済みである。イギリスのセドン氏の「こんなISO9000はいらない」(西沢訳:近代文芸社刊)で次のように登場している。
「1980年代には、審査機関は彼らの顧客が審査と登録についてきびしい不満を聞くようになった。審査機関は、『訪問する専門家』を『審査』から『監査』に変えた。審査機関は『監査』によって、助言と指針を提供する役割を持つと説明した。これは顧客に付加価値を与える必要性を認めた結果である。
しかし、これは審査の境界を越えるものであった。審査員は助言者であってはならないからだ。それは適切でない影響を与える危険性があるからだ。―――――審査員が助言をできることにしたため、審査員の役割があいまいになった。審査員はあるときは検事になり、同時に弁護士にもなった。
また、助言は、企業に付加価値があるかどうか関係なく、審査員が属する審査機関の必要性にあわせた助言となっていった。―――――当然であるが、監査員の力を乱用する事実があった。例えば、ある審査機関では、審査員が「付加価値あるサービス」を提供するように、審査員に目標を設定した。しかし、そのノルマを達成するには、必然的に、審査員に熟練した能力が要求されるが、それは審査員の能力からして、実施不可能な無理なノルマであった。」
歴史は繰返す。人はたった20年ほど前の歴史にすら学んでいない。
|