産経新聞の「審査トラブル続出」記事のコメント
(H16年3月2週号)

産経新聞2月29日(日)の社会面で、「ISOの審査トラブル続出」という見出しの記事が出た。書類過剰問題についての私へのインタビュー記事も20行ほど掲載されていた。

最初の記事は、ある主任審査員の不満問題が主であった。
ある審査員が原子燃料輸送会社の審査で、放射性物質に汚染された廃棄物を運ぶ訓練用容器の設計図面から、溶接方法の不具合が分かった。審査員は不適合にして是正処置を求めたが、上司の主任審査員の反対意見で「観察事項」に格下げされたという。
また、海底ケーブル施設工事会社の審査の際、計測器にサビが発生していることなど、計12点の是正処置を工事会社側に要求したが、会社側から審査機関に苦情が来て、彼は交替させられたという。
この審査員はこれに不満で、JABに「審査機関と企業のなれあいは審査を無意味にする」と申し立てをしたという。
これがこの記事の出だしである。

1.審査員の交替はよくあることである。
この記事で、審査途中で企業側の要請で審査員が交代することは本来ないことだと、関係者の話として書いているがこれは正確でない。審査中の審査員の交代の事実はかなりある。良い審査機関は、企業側が正当なクレームを出したとき、その審査員を審査途中でも交替させる(このホームページの審査/コンサル体験談コーナーの「審査機関の選択ポイント:H13.7月2週号」参照)。
大体、企業側が、審査員が良くないと思うのは、審査が始まってからでしか分からないではないか。

2.この審査員のマネジメントシステム審査の「力量」が問題である。
JABに申し立てをしたこの審査員の指摘内容を見ても、クレームがつきそうな審査員である。非は審査機関や企業になく、審査員にあると容易に推定される。審査員はJABに不服の申し立てをしたというが、記事の内容で判断する限りこれは正当化されない。

理由は簡単で、この審査員は、製品の技術監査と、マネジメントシステム審査の違いが分かっていない。
設計図面の設計内容を見ていて、設計のマネジメントシステムを審査していない。

計測器のサビを見ていて、計測器管理を見ていない。
これらは、すべて、上司の主任審査員が修正したように「観察事項」である。是正処置として扱うにしてもマネジメントシステムの該当するshallがない。出身が製品検査員か、技術者であったのかもしれない。溶接の不具合や計測器のサビという技術レベルの問題から、裏にあるマネジメントシステムを見ることができないのである。マネジメントシステム審査員としては「力量」不足である。
この審査員は、審査した企業の製品がクレームとなったとき、技術的に共同責任をとるつもりで審査をしているのだろうか。

2.製品審査とマネジメントシステム審査の違いの常識論
ISO9001:2000は、認証しても製品にISO9001のマークをつけられないというのは、製品審査をせず、マネジメントシステム審査に徹しているからである。
(1)PL法
PL法ブームの頃、審査機関が審査し、認証した会社が問題を起こしたとき、審査機関も賠償責任を負うのかという話が出たことがある。だから、製品責任はないということでISO9000の「認証」と言わないで、「審査登録」というのだという説明があった。
(2)医療事故
ある大手審査機関は、病院がISO9001:2000の認証を取得するのにあまり、熱心でない。それは医療事故で、認証した病院の事故の共同責任を負いかねないからだという。医療事故は、最近は億単位の賠償金が多いので、二の足を踏むのであろう。これも誤解である。
(3)環境機器
環境機器を作っていた荏原製作所藤沢工場が、法規制を上回るダイオキシンを排出したことがある。それで、ISO14001を返上したという。これもおかしい。マネジメントシステムはこういう問題があるときにこそ、効果的に対応するためのものである。医療事故も同じである。
(3)自動車のリコール
日経ビジネス1999年10月25日号では「こんなISOはいらない」特集で、富士重の約150万台リコール問題をとりあげているが、ここでは、問題が発覚してから、処置の遅かったことが問題になり、ついに当時の運輸省の立ち入り調査となっている。富士重は、ラインランド技検でISO9001を取得していた。ISO9001は製品保証をしてないので、リコールが出たこと自体、審査機関として責任を問われない。しかし、不具合を公表せず、隠していたというのはマネジメントシステムの問題であり、審査機関は是正を求めるべきであろう。この場合は、審査機関は是正を求めていないし、会社もマネジメントシステムを変えていないと、記事は述べている。ISO9001の限界についてポイントを得た取材である。