非管理版マニュアルに配付管理の要求?
(H16年7月3週号)

1.「中小企業のためのISO9001:ISO/TC176よりの助言」
ここでは、次のような解説がある。この解説は94年版も2000版向けも同じである。

「文書のコピーは絶対必要な最小限に保つことが必要である。中小企業では、形式的なことが少なく、誰がどの文書を見るかは明らかであるし、事業所も小さい。このような場合、共通の文書を皆が使うほうがより簡潔なシステムになる。もし、すべての人が集中管理された1つの文書を簡単に使うことができるならば、複雑な配付管理が不要となり、改訂管理は簡素化される。」

2.M社の例
同社は、30人くらいの小企業であるが、94年版を重いシステムで取得した。コンサルタントはデミング賞をとったという大企業出身者であった。小さい事業所に品質マニュアルは15部配付していた。当然、その改訂管理が行われ、意味のない手間が増加した。
2000年版移行のときに、これにこりて、簡素化することにした。審査機関も変えた。「中小企業のためのISO9001:ISO/TC176よりの助言」に従い、マニュアルは配付しないで、事務所にある「原本」を閲覧することにした。会社は1つの小さな建屋にあるので、端から事務所まで歩いてもせいぜい、2、3分である。簡単に「原本」を見ることができる。これで無意味な配付管理がなくなり、問題なく移行の認証を得て、現在、システムも安定した維持をしている。

3.S社の例
最近、B審査機関のS主任審査員による本審査を受けたS社は、上記M社と同じ規模である。この審査員は、予備審査のときから「マニュアルのこの表現を修正すべきである。」というようなテニオハ的なタイプであった。予想通り、本審査で品質マニュアルの配付について、「軽微」であるが、次のような指摘をした。

「ISO9001:2000規格では『適切な版が必要なときに必要なところで使用可能な状態であることを確実にすること』を定めている。現在有効な品質マニュアルは改訂Bであるが、手元で使用している品質マニュアルは『参考用』のスタンプのある改訂Aであった。これは上記のISO規定に適合しない。」

S社は、M社と同じで、管理者が勉強用で手元に持つマニュアルは、改訂管理をしない「非管理版」という意味で、識別のため、「参考用」という印を押している。それを審査員が見て、「原本」がB版なのに、管理者が「参考用」で持っているのが、A版であるという指摘である。ISO9001:2000の「4.2.3 文書管理」c)の「該当する文書の適切な版が、必要なときに、必要なところで、使用可能な状態にあることを確実にする」の不適合だというのである。S審査員は、規格に「該当する文書」とあるのを勝手に無視し、間違った不適合をしている。「参考」とあるのは、改訂管理に「該当しない文書」であることを理解できなかったのである。

S社の管理責任者は、「当社は、小企業なので、『必要なときに』、品質マニュアルの最新版を使用するときは、会社の隅から最大でも2,3分歩いて、『必要なところ』である「品質管理課の棚にある『原本』」に到達できる。したがって、規格要求を満たしている。これはマニュアルにも明記してある。なお、管理者が勉強用に配付して、書き込みなどをしているものは、あくまで『参考用』であり、この「4.2.3 文書管理」のc」の『該当する文書』に該当しない。ましてや、A版とB版の違いは、システムの改訂でなく、分かりやすく図の一部分を簡単にした修正である。観察事項にもならない意味のない指摘である。」と主張した。

もし、これを管理文書とすると、この勉強用マニュアルには、管理者がいろいろ書き込みをしたり、マーカーで塗ったりしているから、未承認の改訂にもなる。すなわち、「4.2.3」のb)に対しても不適合となる。品質マニュアルは会社の憲法である。それが管理されていないという判定なると、マイナー(軽)の不適合でなく、メジャー(重)の不適合である。S審査員の不適合指摘は一貫していない。無理がある。

「参考用」という識別は、会社によっては、「非管理文書」とか「管理外文書」とハンコを押して、識別している場合もある。これは版番管理に「該当しない文書」という意思表示である。ISO9001:2000を取得している外国企業に行って、品質マニュアルをもらうと、どの企業もUNCONTOROLLERD(非管理)という印を表紙に押した。後を追って改訂版を送付しないという意味の国際的な慣行である。
そういう文書が文書管理の要求にしたがっていないと指摘するのは、ナンセンスであるが、S社の話を聞いて、まだ、こういう主任審査員がいたのには、驚いた。テニオハ型力量はなかなか抜けないものだ。