このタイトルは、6月13日の朝日新聞にあったもので、日産のゴーン社長が取材に応じて語ったものであるという。三菱ふそうでの社内処分が、最も重い処分で、出勤停止5日間であったのと比較していた。しかし、その後、三菱ふそうでは、さらに事故隠しが発覚し、その担当は解雇されるという。
しかし、NHKのクローズアップ現代で明らかにされた、三菱の精緻な「隠しマニュアル」とその訓練は、おどろくべき完全なシステムである。「クレーム事実を隠すこと」を品質目標とすれば、訓練も行き届いた、最高、かつ、全員参加の強固なISO9000システムであった。品証部員全員、即クビとなる。
1.三菱だけでない氷山の一角
最近、ある大手自動車部品メーカーAの下請け外注Bに行った。あるとき、その部品メーカーAの納入先の大手自動車メーカーTが直接、その下請け外注Bに視察に来るという。そうしたら、視察の前の週にその大手部品メーカーAの品証部門担当者が数名その下請け外注に来て、数ヶ月にさかのぼって、不良統計をかいざんしたという。
私は仕事柄、いろいろな自動車部品の中小メーカーを訪問するが、今回の三菱のリコール隠しでは、井戸端会議的には、品証部門の人は三菱に多少同情的である。どうしても顧客や上役には悪いことは隠したがる。そして、多くの自動車部品メーカーが似たようなことが多かれ少なかれあるという井戸端会議的な話は尽きない。
昔から、多くの会社の品質保証部門というのはデータを持っているから、隠し専門の部門でもあった。だから、ISO9000の外部審査に対しても同じ対応をする癖は抜けない。
私が、就職して配属されたのは、品質保証部門であった。当時から11月に「品質月間」というのがあった。会社は、品質保証課が中心となり、キャンペーンをした。12月に上役である担当重役が出席して、品質保証課主催で11月の成果発表をすることになった。まだ、新入社員だった私は、事務局の手伝いで、11月のデータをまとめた。そうしたら、通常の月より不良が多い。それを見た課長は、11月だけ少なくするように改ざんを命じた。成果発表会では、その改ざんしたデータが課長から担当役員に発表された。
私は、翌年、新工場の品質保証と検査部門を任されたが、改ざんはしなかった。その年の11月の成績も悪かった。当然、上役から追求がきた。私は、これは、品質保証の責任というより、品質は工程で作られるので、生産部門の責任であると説明した。上役は気に入らなかったのか、翌年、私は、生産管理部門に配属替えとなった。しかし、生産管理の立場で会社全体のシステムを扱うようになり、逆に、作るほうから品質向上に実質的な貢献ができるようになった。力がついた。
2.トヨタ生産方式の根底
トヨタ生産方式を教えるアメリカの学校があるが、最初に徹底的に教えるのは、「悪いニュースを先に言うこと。;Bad
news first」ということだそうだ。アメリカでも一般的には「よいニュースを先に言う。;Good news first」であるという。それは、悪いニュースは隠したがる一般的な人間心理につながる。
トヨタ生産方式の「あんどん」は、「悪いニュースを先に言うこと。;Bad news first」の考えからきたシステムである。流れ作業の一作業者が、ひもを引張り、ラインをストップできるシステムでもある。20数年前、アメリカのGMからトヨタに研修に来た現場職長が、これに驚いたという。当時のGMでは、異常を知らせるために、ラインを止めた作業者は、即、クビであったからだ。だから、気がついても見て見ぬふりをする。
トヨタ生産方式の在庫ゼロも、問題をクローズアップする役割がある。また、作業中に手があいたら、掃除などで体を動かさず、直立せよという。作業者の体が動いていると問題がクローズアップしないからだ。
3.「目で見る管理」の形式化
「目で見る管理」とは、もともと異常を目で見やすくしてクローズアップし、異常発生をつぶすという改善目的がある。ところが、いろいろなグラフとか、掲示を現場に表示して、作業者が見られるようにしたり、やたらに報告書作成に手間がかかるデジカメ写真をカラフルに貼り付けたりすることを「目で見る管理」としている。
しかし、ベタベタ貼った書類は、仕事に忙しい作業者は見ない。異常情報にならない。時にはきらびやかなデジカメ写真はウソであり、事実を巧妙に隠すことに使うことすらある。
無駄をなくすための「目で見る管理」が、形だけで、無駄を生んでいるのは皮肉である。
このようなスローガンや掲示は、デミングは嫌っている。彼はその14原則の中で、このような掲示は、作業者に責任を押し付けるもので、システムの改善を遅らすとして批判的である。
4.隠すこととの戦い
人は悪いことは隠したがる。しかし、それでは品質は画期的に向上しない。そこで「あんどん」のようなシステムの確立や、問題をオープンにする訓練を徹底しないと、自然に、悪いことは隠れる。その常識的な人間心理の理解力が管理者にないと、部下は隠すことになる。悪いことが出ると作業者を怒鳴る経営者も問題である。怒鳴られると隠す。
ある大手の工場で、ある日、年末でもないのに、皆、大掃除をしていた。明日、本社から社長が工場を見に来るのだという。当日、社長が来たが、いきなり、社長は予定ルートでなく、工場の裏側を回った。そこは、きちんと整理されていなかった。社長は笑っていた。これくらいのセンスがないと、社長は務まらない。
下から悪い報告が少ないのが、一般の会社である。それがピンとこないのは人間としても失格である。ましてや、社長の器でない。下から報告がないので、知らなかったというのは、まだ、1人前の経営者でないことを示すだけである。
最近、新聞の書評を読んでいたら「名経営者がなぜ失敗するのか?」という翻訳本が紹介されていた。著者は、アメリカの大学の企業の失敗研究の専門家であるという。著者は、多くの失敗の分析から、これを防ぐために、共通しているのは「臭いものに蓋をしようとする人間の本性と戦うこと」が経営者の最大の仕事であるとしている。
まさにトヨタ生産方式の「悪いニュースが先」の徹底である。
なお、7月25日発売の「アイソムズ」8月号の「四つの視点」第13回「なぜ起こる?ISO9001取得企業の品質事故」の当社寄稿記事参照のこと(著書、研修内容、記事コーナー)。
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