「異常」漢字の掲示の異常
(H16年9月1週号)

1.書類過剰好みの審査員の観察事項
M社は大手企業A社の専属外注で50人くらいの組立業である。ISO9001:2000でB審査機関の本審査をパスした。審査員の観察事項にgood pointとして、いろいろな掲示をしていることをほめている項目があった。しかし、これらは、大手企業A社(M社にとっては顧客)の品質保証部門の強制要求で掲示したものである。
M社としては、意味のない過剰な文書掲示であり、かつ、きちんと文書管理をすると、無駄な手間が増えるので、ISO9001:2000の社内文書としては取り扱わず、「外部文書」として登録管理した。
しかし、審査員は大企業型の過剰書類システムを高度のシステムであるというパラダイム(このホームページの「基礎知識」コーナーの「2つの違った品質保証のパラダイム」:H15年3月1週号参照)をもっているので、無駄な書類をできるだけ避けるというM社のシステムを理解できなかった。これはこの審査員のコスト意識がないレベルを示している。

その審査員が指摘したgood pointの一例として「『異常時の対応手順』などが掲示されていて、一般の作業員に目で見て分かりやすくなっている。」とほめている掲示があった。
しかし、この掲示は、顧客の品質保証部門の要求でM社が仕方なく、顧客向けに掲示しているものであった。この掲示をどの作業者は誰も見ていないし、作業する上で、必要な内容が書いてなかった。それを審査員は理解できなかった。
大体、ISO9001:2000では、「不適合」という用語はあるが、「異常」という用語はない。それを掲示するのは、作業者に用語上の混乱を与えるだけである。その審査員からそういう指摘もなかった。

2.「異常」の掲示と「目で見る管理」の関係
この「異常」に関する掲示は、おそらく「目で見る管理」からきたもので、「異常の定義」と「異常連絡の流れ」を作業場に大きく掲示し、現場作業者が「目で見れる」ようにしたのであろう。
こういう掲示は、M社だけでなく、中小企業でよく見かける。いずれもその顧客の品質保証部門の要求である。いろいろな会社で共通の掲示を目撃するが これは各社の品質保証部門の人が「目で見る管理」の研修で同じことを学んでくるからであろう。

しかし、この異常の掲示は実にナンセンスである。それは「異常を誰にでも目で見て分かる」ようにすることと無関係である。
それは「異常」という抽象的な漢字を誰も見ることができるように掲示しているだけである。異常の管理とは無関係の掲示である。
異常を目で見るようにするのは、作っている製品や工程によって、いろいろ違う。個性がある。その個別性を知らずに異常対応はできない。
機械であれば、異常が発生するとランプの点滅という目で見ることができるようにし、かつ、自動停止することである。すなわち、その機械を扱う作業者に「異常」という漢字は不要である。「異常」という漢字は消え、その工程は「ランプの点滅」「機械の自動停止」という具体的な「言葉」に吸収されるからである。
「異常」という抽象的な言葉を現場からなくし、工程ごとに個別の言葉(ランプの点滅とか、カウンター表示とか)に置き換えることが「目で見る管理」の定着である。

「異常」という抽象的な「漢字」の掲示は、皮肉なことに「目で見る管理」が真に定着していないことの宣言掲示である。

デミングが、意味のないスローガンなどの掲示はシステムの問題解決から目をそらすと言っているが、まさにその通りである。