| ある地方都市に行くことになり、インターネットでビジネスホテルを探した。そのホテルリストに昨年、環境の国際規格ISO14001を取得したホテルがあった。ためしに泊まることにした。
1.顧客からみたホテル施設の状態
フロントは長いカウンターはなく、小さな台で若い女性が1名いる。横の壁側で宿泊用紙に氏名・住所などを記入し、そのフロントの台の女性に渡すと、代わりに部屋の名刺大のカードが渡される。隣に、自動支払機があり、部屋のカードを自動支払機に差込み、現金を投入するとカードに金額が印刷されて返ってくる。領収書にもなる。フロントでは現金もクレジットカードを扱わない。このカードが部屋の鍵になるが、役割を終わったら捨てられるので、後は何時でもチェックアウトできるというわけだ。
部屋にはそのカードを差込み、ドアを開けて入る。洗面所(ユニットバス)には備え付けのカミソリ、歯ブラシ、固形石鹸はない。石鹸とシャンプーは、プッシュ式のものがある。カミソリと歯ブラシを忘れた人は、1階の自動販売機を利用するようになっている。トイレはウオシュレットである。ヘヤドライヤーは備え付けがある。
部屋はシングルであるが、ベッドは大きめ。移動円形テーブルはあるがこれが机代わりだ。鏡もない。ティッシュもない。冷蔵庫もない。ポットや湯沸し機もない。1階に湯沸しポットがあるだけだ。だから部屋はゴタゴタしていないで、すっきりしていて、清潔感がある。備え付けのパジャマや浴衣はない。希望すれば無料で借りることになる。ゴミ箱があるが可燃ゴミだけ捨てる。不要なペットボトルや缶は床に分けて置くようにと案内に書いてある。レストランはない。商店街なので、容易に外食はできる。朝食だけパン、ジュース、コーヒーを無料で、セルフサービスで利用できる。商店街にあるが、騒音は聞こえないから、最低の条件は満たしている。
2.顧客満足との関係
これは宿泊する顧客にとっては、サービス低下と感じるかもしれない。顧客によっては、「顧客不満足」となる。私が不満足だったのは備え付けのポットがないことであった。このままだとISO9001:2000とISO14001の統合のときに矛盾することになる。
ホテル側にとっては、経費節減となるから、同じレベルのビジネスホテルより、15%くらい安いようだが、価格とサービス低下とのバランスだけで判断して利用するのでは、環境改善という見地からは意味がないことになる。顧客満足と矛盾しないためには、地球環境を守るという高い見地から、顧客の満足を得るという理念を前面に押し出す姿勢が必要であろう。
3.このホテルの環境方針
ISO14001の環境方針の要求項目で、「環境方針は、一般の人が入手可能であることを確実にする」とあるので、フロントの若い女性に、「環境方針書をください。」と言った。そしたら、とまどって、「環境方針はこれです。」と言って、胸ポケットから環境方針を書いたカードを出した。借りて一読して返した。私の質問の意味が分かっていないらしい。
部屋に帰ったら、その女性からすぐ電話がかかってきた。「すみません。環境方針書がありますので、フロントに来たついでに、お立ち寄りください。お渡しします。」とのこと。
もう1年になるのに、「環境方針書をくれ。」という客はいなかったのであろうか。ここの宿泊客は、あまり、ISO14001に関心がないのだろうか?
フロントに寄ったら、A4大の環境方針書を渡された。トップマネジメントの肉筆サインのあるコピーであった。
規格では、環境方針に関して、a)からf)までの6つの要求があるが、このうち環境本心の中身に関する要求は、a)からc)までの3つである。d)からf)までは、その環境方針の運用である。例えば、「全従業員に周知させる」というのは、環境方針を従業員に周知するという運用を要求しているのである。環境方針の中身ではなく、扱い方である。
ところが、よく見かける環境方針書では、a)からf)までを環境方針として羅列している。例えば、e)は「全社員周知」、f)は、「一般の人が入手可能なこと」である。これらすべてを、環境方針というタイトルで長い箇条書きで1枚の掲示板に書いている例が多い。右ならえの日本型の流行である。e)、f)のような実務レベルの内容を含めるのは、環境方針の意味を理解していないことになる。
このホテルでは、それを感じたのか、環境方針を下記のように基本理念と行動指針とに分けている。ところが、基本理念にb)とc)の内容がなく、行動指針のほうにある。
最初に、8桁の文書番号がある。文書過剰なシステムであることはすぐに分かる。
管理No.EMS−D420
環境方針
基本理念
当ホテルは、清潔、安全で快適な宿泊施設を適正な価格と親切なサービスで、多くの皆様に提供させていただいております。
また、当施設では、必要なものを必要なだけ取り揃え、お客様の負担を最大限に減らす受益者負担の考えを徹底し、環境負荷の低減に努めています。
しかしながら、この事業においては、資源やエネルギーを消費し、生活排水、廃棄物を排出しています。
私達は、これらのことをよく認識し、下記行動指針に沿って、継続的な環境保全活動に取り組み、地域及び地球のよりよい生活環境を守ることを約束します。
行動指針
@.省資源・省エネルギー活動のさらなる推進により、電力・水・ガス使用量の低減に努めます。
A.省資源及びリサイクルの促進により、廃棄物の適正な処理と低減に努めます。
B.環境負荷の低減並びに環境汚染の予防に努めます。
C.環境関連の法規制及びその他の要求事項を遵守します。
D.環境目的・目標を設定して、実施を図り、定期的に見直すことにより、環境マネジメントシステムの継続的改善を推進します。
E.従業員に必要な教育訓練を行い、本方針に沿った行動ができる人材を育成します。
4.上記の環境方針のコメント
基本理念の途中で「しかしながら」とあるのは、サービス低下と環境との矛盾した関係をどのように解決するかの悩みがあらわれている。行動指針の3.と4.は理念とダブル内容である。6.は規格のe)の「全従業員に環境方針を周知する」に対応するのか?規格のf)の「一般の人が入手可能である」は方針レベルの問題でないので環境方針そのものに含めていないのはよいことである。
5.基本理念の私案
ホテルの環境対応の基本理念を環境負荷とサービス低下との矛盾点の解決の宣言とするなら、次のような言い方ができるのではないか。
基本理念
当ホテルは、地域及び地球のよりよい生活環境を守るため、ホテル活動による環境負荷の軽減を目指します。この実行は、当ホテルを利用する皆さんの環境に対する深い理解に支えられてはじめて実現されます。同じ地球に住む者として、その環境を守ることが最大の顧客サービスと考えます。
また、環境負荷低減へのご協力に賛同された感謝として、必要最低限の快適な宿泊サービスを適切な価格で提供することを約束します。
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