目標管理とISO9001:2000
(H16年9月4週号)

1.目標管理の崩壊
(1)デミングの警告
デミングはその14原則の3番目で「目標管理をはじめ、数字で示された個人目標やノルマを排除せよ。」と言っている。そして、航空会社の電話予約係の女性の例、交通警官の駐車違反のチケットの例、連邦調停官の業績評価例、郵政公社の購買担当者の例などいくつかの弊害例をあげ、プロセスよりも結果に重きをおくとして批判している。

(2)「内側から見た富士通『成果主義』の崩壊」(光文社刊)
@富士通の目標管理の崩壊
表題の本は、最近、ビジネス書のベストセラーの上位にあるという。著者は、富士通の人事部にいた人である。著者が、書いているのは正確には「成果主義」の批判や否定でなく、成果評価のために用いた目標管理への批判である。人事部担当として、その推進の中心にいただけに生々しい弊害例があげられている。その例は、まさに、デミングが指摘した目標管理の弊害例と同じ類のものである。
例えば、著者本人は、人事部でルーチンワークをやっていたので、確固たる「目標」はない。しかし、「目標シート」を書かなければならない。そこで「退職に関する稟議が上がってきたら3日以内に処理する」「退職金の計算を間違えない」など、まるで小学生のような目標を「目標シート」に記入し、上司の了解を得たという。
著者が出席したある部の評価会議では、部長の前に、約千枚の「目標シート」が積まれ、その山を見た部長は、評価が嫌になり、個別に見なかったという。

プロジェクトXの成功例の多くは、このような目標管理から脱落した人たちの成果である。

A人事部エリートの「机上理論」が原因
この本の著者はその無理な「成果主義」の推進の根底には、それを推進した人事部やコンサルタントの「机上理論」にあることを指摘して、次のように述べている。

「『机上理論』の特徴は、それを振り回す人間に、生身の人間に対する洞察力が欠落している点にある。新しい『評価システム』をつくり、そのマニュアルを従業員に配布しさえすれば、あとは従業員がそれにしたがって完璧に作動するはずだという思い込みである。
人間は部品ではない。だから、理論やマニュアル通りには動かない。そんなことは誰にもわかっているはずなのに、彼らにはわからない。」

このように、彼らエリートには、ある信念:パラダイムがあるのである。その信念にまじめに従っているのであるが、会社に貢献していないのである(このホームページの「基礎知識」コーナーの「2つの違った品質保証のパラダイム:H15年3月1週号」参照)。

2.ISO9001:2000と目標管理の結合の弊害
(1)「こんなISO9000はいらない」(西沢訳、近代文芸社発売)でのセドン氏の指摘
イギリスのセドン氏は、この本でイギリスの電力会社のISO9000の事例を細かくとりあげ、仕事が統制され、文書化され、監査されるべきであるという信念(パラダイム)は、仕事を非効率にし、顧客への魅力を失うと指摘している。その他、電話サービス会社の例もあげている。セドン氏の事例のように目標管理の発想(パラダイム)は、文書押し付け型、書類過剰型のISO9001:2000と似ており、これが結合すると相互に強化され悲惨な結果となる。

(2)ある中小企業での結合例
ある中小企業の社長が、目標管理をISO9001:2000取得に合わせて、コストダウン目標も含めた個人レベルまで徹底して実行することを考えた。そして、ISO9001:2000の審査に来た審査員に、「ISO9001:2000はただ取得するだけではだめで、それにより、会社が利益を出さなくてはならない。だから、目標管理を織り込むべきだ。」と説明した。会社の業績に貢献するISO9001:2000にしたい気持ちは分かる。しかし、何故、したたかな中小企業経営者が、間違って目標管理を選択し、ISO9001:2000と合体しようという最悪の経営方法を考え出したのか?それは、その社長の従業員に対する姿勢に原因があったようだ。

それは、この社長がワンマンタイプで「怒鳴り、押し付ければ人は動く」という考えが底にあったようだ。先の富士通の「机上論」エリートと同じような従業員に対する姿勢である。その押し付けの道具を強化するためにISO9001:2000を使うという着想である。だから、目標管理と結合したISO9001:2000でないとこの社長には意味がない。
だから、その社長は、ISO9000の品質マネジメント8原則の3番目にある『人々の参加』を知らないか、真に理解していないことになる。

さらに悪いことに、審査に来たISO9001:2000の審査員も書類過剰型のパラダイムをもっていたので、社長が示す目標管理の目標シートの書類の山を見て、感心し、社長をほめ、このシステムが動けば、取引先の大手企業から表彰されるであろうと持ち上げた。社長は、ワンマンタイプの典型なので、逆にべた褒めに弱く、二人は意気投合となった。ISO9001:2000審査にならなくなった。
経験もあり、勉強をしている審査員なら、「目標管理は問題が多いですよ。従業員が合理性のない目標シートをいやいや書いたらだめです。もっと、従業員の意見を聞く姿勢を作ったほうがいいでしょう。押し付けているので雰囲気が暗いですよ。トヨタのかんばん方式の裏に『人間尊重とチームワーク』があることを学ぶべきです。」と言えたであろう。
そういう目で見れば、その社長が「フセイン」と従業員から陰口をたたかれ、幹部の定着がよくないことを、審査員は肌で感じたであろう。恐怖政治にもある程度の効果はある。しかし、長続きはしない。

この会社に貢献するISO9001:2000は、皮肉なことに、まさに、社長や審査員が導入しようとしている目標管理を積極的に排除することから始まる。