1.「The Toyota Way」に書かれたISO9000との関係
最近、アメリカのマググロー社から「The Toyota Way」(翻訳は日経BP社の「ザ・トヨタウエイ」)が発刊された。著者は、アメリカのトヨタ研究者のジェフリー・K・ライカー氏である。
この本の第11章に「品質管理をシンプルにして、チームメンバーを巻き込む(Keep Quality Control Simple and
Involve Team Members)」という項目があり、この中で著者は、ISO9000とトヨタ生産方式の違いを次のように2つふれている。
(1)文書化の考えの違い
「品質管理をシンプルに」という意味の1つは、ISO9000の書類過剰に対するものである。著者は「ISO9000は、詳細なルール文書を作れば、ルール通り動くという考えを企業に信じさせてしまった。」として、品質を作りこむ本質が、詳細な官僚的で技術的な手順書により失ってしまったとしている。
著者は、例として、トヨタのジョージタウン工場の製造担当役員であるドン・ジャクソン氏の体験を紹介している。彼はトヨタに入る前は、アメリカの大手自動車部品メーカーの品質保証部長であった。その当時、彼は細かい文書にこだわり、彼が手伝って作った複雑な品質マニュアルを正しいものだと思っていた。
彼はトヨタに入ってから「前の会社では、詳細な目標や手順書を作りました。しかし、それらはその通り実施するのは困難でした。だから、もともと、失敗する運命にあったのです。」と言ったという。
彼は、トヨタに入ってから、その官僚的な意識は消滅し、今も外注の監査もしているが、以前のような官僚的な考えと全く異なった物の見方で対応しているという。
ドン・ジャクソン氏は、全く異なった2つのパラダイムを経験したことになる(このホームページの「基礎知識」コーナーの「2つの違った品質保証のパラダイム(paradigm):H15年3月1週号」参照)。
トヨタを生んだ日本では、いまだに官僚的な品質保証部員や審査員がISO9001取得拡大とともに増加し、品質保証部員は外注監査で、トヨタに転職する前のドン・ジャクソン氏が行なっていたような官僚的な考えや方法を押し付けている例が多い。
(2)統計的手法の扱い方
「品質管理をシンプルに」の2つ目の意味は、統計的手法のことである。
著者は、通常、品質保証部門は膨大な統計的手法で武装されているという。シックスシグマは、企業の重要な品質問題を解決する専門の黒帯集団を生み、その集団は、高度の技術的な手法で武装され、非常に活動的であるという。エリートインテリ集団である。
しかし、トヨタのやり方はシンプルで、複雑な統計的手法をほとんど使わない。そのプロセスも「現場に行き、観察し、その実態を分析し、問題を表面化するために一個流しとアンドンを使い、原因追及には5回何故を聞く。」だけである。
セドン氏も、ISO9001:2000の是正処置、予防処置の区分は冗長であり、効果的な方法はトヨタ生産方式のように簡単であると言っている。
日本でも、不良品の原因分析にツリー分析といって、1つのトラブルに、数時間の無駄な書類作りに時間をかけて複雑なツリーを描いている例をよく見かける。その時間を現場主義に向ければより効果的であるのに。
2.2つの違ったシステムの世界的拡大
トヨタ生産方式は、トヨタの躍進とともに、この20年くらいの間に、世界的に広まっており、それはサービス業まで拡大している。ISO9000以上の拡大ではないか。
問題は、両者の考え方の基本的な違いである。トヨタ生産方式発祥の地である日本ではその混乱がある。
トヨタ生産方式はISO9000と違い、強制でなく、トヨタをはじめとして多くの企業が企業業績を向上させてきたという実証をもとに、自主的に拡大している。これはイギリスでスタートしたISO9000との大きな違いである。イギリスでは、ISO9000が拡大しながら、ローバーなど、イギリスブランドの自動車は衰退するばかりである。これをトヨタ生産方式のファンであるイギリスのセドン氏は「こんなISO9000はいらない」(西沢訳:近代文芸社発売)で指摘している。
氏は、現在、トヨタ生産方式をイギリスのサービス業に応用するコンサル業を行い、効果をあげ、多忙である。その成功例をもとに、昨年、サービス業へのトヨタ生産方式の応用ということで「命令・支配からの脱却(Freedom
from Command & Control)」(和訳なし)を発行した。氏は、この発刊の前に原稿を私に送付してきて、感想を求めた。私はこの原稿を読んで次のように書いて送った。
「大野システム(トヨタ生産方式)は製造業における革新的なシステムである。大野氏は、この方式により、最高の品質と最低のコストは同時に達成できることを立証した。セドン氏はこの考えがサービス産業にも効果的に適用できることを、分かりやすくこの本で説明している。」。この推薦文は他の10名の人の推薦文とともに、この本に掲載された。
イギリスのISO9000とトヨタ生産方式の対峙のまとめは、このホームページの「著書・研修内容・記事」コーナーの「2004年あいち産業情報8月2日発行号」を参照されたい。
私は、「黒船を迎えた製造現場」という本を1995年に出した。ISO9000の波に、日本はどのように対応するのか。書類におぼれるのか。約10年たったが、やはり、多くの会社は、無駄な書類に溺れ、真の品質を見失ってしまったようだ。
アメリカ人である「ザ・トヨタウエイ」の著者は、1998年に、トヨタ研究で新郷重夫賞を受賞している。日本人で新郷氏(故人)を知っている人は何人いるであろうか。
トヨタウエイの本質をISO9001:2000と比較して、再度、見直し、無駄のないISO9001:2000にすべきであろう。
|