ガチンコ審査員・コンサルタント・品証部員はどこに?
(H16年10月3週号)

1.ある基本的な疑問
ISO9001やISO14001の審査は、ビジネスの場で審査する。その審査の場で、審査員がビジネス上、常識的におかしな発言をするのは、何故なのだろうか。これは多くのコンサルタントも同様である(このホームページの審査/コンサル体験談コーナー参照)。
通常、審査員やコンサルタントは大手企業(品証部)出身や、それなりの教育を受けた、いわばビジネスエリート的な経歴をもっているはずだ。それが何故、大人のビジネス議論ができないのであろうか。何故、常識はずれの無駄な書類過剰の官僚型パラダイムを持つようになるのであろうか(このホームページの「基礎知識」コーナーの「2つの違った品質保証のパラダイム:H15年3月1週号」参照)。

2.「時流自論」(朝日新聞2004年9月5日号)の「ガチンコでエリートを鍛えよ」
1.の疑問に答えてくれる1つの答えが、この新聞コラムの富山氏(60年生まれ。昨年4月から産業再生機構のコンサルタント)から示されている。氏は、再生機構の現場からの感想を述べている。氏は、別にISO9000の専門家でないが、氏の論議は、この失われた10年の日本のビジネス社会全体に当てはまると同時にISO9001やISO14001の審査員・コンサルタント・品証部員の人材問題にもぴったり当てはまる。
このコラム記事は長いが、要点を抜粋してここに引用する。

「私は30代の初めに米国のビジネススクールに通った。経営について勉強しながら『本当にビジネスを分かろうと思うなら机に向かう勉強よりも、半年間、ラーメンの屋台を引いたほうが良いのではないか』と考えた。
お客さんとはどういうものか。どうやったら儲かるのか、一杯500円で売るべきか、700円が良いのか。
その後、会社に戻ってから今日まで、そのときの感想が的外れでなかったと感じている。企業や事業の再生案件を扱う際には、現場の知識とも、リアリティーの肌触りとでも言うべき「暗黙知」が判断の礎になる。(中略)

日本の企業や役所を見れば、エリート層が最も安全な場所に、狭い予定調和の世界に閉じこもったまま、ひ弱に成長(?)していく。組織システムがそれを固定化している。(中略)。

銀行に入っても生涯銀行員ではなく、一度は完全に転職して事業会社に勤める。銀行にも頭を下げて、おカネを借りる。行政官だった人間なら、いったん役所と縁を切って、できれば小さい民間の厳しい現場に行って「経済ってこう動いている」と実感するまで仕事をする。会社員なら、小さい部隊でもいいから「見習士官」として部下を率いて現場を走り回ってみる。初心者に戻れば、間違いなく大きな習熟曲線を描く。誰のせいにもできない失敗をして「責任」の本質を学ぶ。
それによって、人間の厚み、人間の幅、豊かな発想が磨かれていく。
(中略)

健全なエリート育成システムに共通するのは、第一にエリート候補をごまかしのきかないリスクの大きい場所に放り出し、ガチンコで鍛えること。そして歴史観と哲学観、すなわち「志」を持たせることにある。
独立した個人が自分の意志と世界観と、ある種の使命感で動いていく。そんなガチンコ型エリートが生まれる仕組みにすることを、日本は真剣に考える時期に来ている。(中略)

アテネでは徹底的な合理主義と、自分の意志と言葉を持った若者たちによって日本のスポーツは復活を果たした。
次は経済と政治の番だ。日本再生の歯車を回すのは活性化した個人なのだ。(完)。

3.現場感覚の暗黙知とISO9001:2000審査
富山氏の「暗黙知」が現場主義のパラダイムである。ビジネスの世界では、現場主義のトヨタが似たパラダイムをもっているH16年10月2週号参照
「ばかの壁」の養老教授が言っていた、半年ごとに参勤交代で田舎で自然相手の生活をすべきだというのと同じ発想であろう。人は泥臭い自然を忘れ、都市化しつつある。
したがって、富山氏の指摘同様、ISOの世界でも、企業にとって効果的な審査・コンサル・品証部員による外注指導にはガチンコ型エリート審査員やコンサルタントが必要である。そうでないと、書類過剰を好むパラダイムを持った、コストに無知な「ひ弱な」審査員やコンサルタントが育成され、企業にマイナスを与える。
「ひ弱さ」は、中小企業に対する審査やコンサルティングで一番よく分かる。ガチンコ経験の有無が露呈する。

100人くらいの中小企業T社の予備審査に来た審査員に、管理責任者が審査開始前に「shallに基づいて、審査してください。」と言ったら、その審査員は「大丈夫、心配しないでください。それは当然です。特に私は大手企業にいましたから、安心してください。」と言った。これは、なお危ないと管理責任者は思った。案の定、書類過剰要求のめちゃめちゃな審査になった。管理責任者は、審査機関にクレームを出し、交替してもらった。

もっとも、現場経験だけでもだめである。古今東西の経営の歴史の勉強も必要で、「バカの壁」の養老教授の言うように、「文武両道」が要求される(このホームページの「審査/コンサル経験談」コーナーの加価値審査に必要な力量:H16年8月2週号」参照)。小学高学年生の4割が天動説のパラダイムを持っているという時代である。だから、審査員やコンサルタントが不勉強なのも当然かもしれないが、学生ならともかく、金をもらっているビジネスの社会ではそれでは困る。