「アイソムズ」04年12月号
特集:適合性審査とその付加価値
付加価値審査の実態
付加価値審査は企業に貢献しているか?
―中小企業を悩ます現状と問題点― |
付加価値のある審査について、企業側ではどのように受け止めているのだろうか。よりシステム改善に寄与する審査の提供を試みる審査機関から、実情に合わない指摘をうけて、困惑する企業があることは否めない。この問題について、内外の事情に詳しい西沢氏に、付加価値審査の実態と問題点について解説をお願いした。(「アイソムズ」編集室)
第三者登録審査における付加価値審査の問題点
西沢総合研究所 所長 西沢隆二
1.イギリスにおける付加価値審査
イギリスは第三者審査の歴史が長く、1980年代に「付加価値ある審査」の問題点も経験済。セドン氏著「こんなISO9000はいらない」(西沢訳:近代文芸社刊)に、概要、下記の説明があり、これによると日本は約20年後に同じ体験を繰り返しているようである。
「1980年代(ISO9000の母体となったBS5750時代)には、審査登録は顧客のプラスになっていないという顧客からのきびしい不満に対応して、審査機関は『訪問する専門家』を『審査assessing』から『監査auditing』に変え、『監査』によって、助言と指針を提供することができるようにした。しかし、これは審査の境界を越えるものであった。審査員の役割があいまいになった。審査員は同時に密猟者と狩猟管理人となった。この審査員の助言は、イギリスの品質や国際競争力の改善に貢献しなかった。ある審査機関では、審査員が『付加価値(value-added)あるサービス』を提供するように、審査員にノルマを設定した。しかし、これは、審査員の力量不足から不適切な審査の原因となった。」
2.付加価値審査は、企業の品質向上に貢献しているか?
中小企業はコスト競争が厳しく企業実態にあった創造的な助言が特に必要である。したがって、付加価値審査は不適切な審査として中小企業に端的にあらわれる。代表例を示す。
(1)T社(従業員約100人)の予備審査の例
a)審査員の助言(カッコ内は会社側反論)
@検査表は記録も兼ねるので、文書と記録の帳票に分離必要(見難く、かつ、紙の無駄)。
A経営者のコミットメントの詳細な手順書必要(“文書化した手順”要求なく、無駄)。
B毎月の品質会議のどれかをマネジメントレビュー会議と定めること(当社はTC176の助言により年1回、社長個人が実施。品質会議は部門長レベルの問題を扱う会議)。
C8.3「不適合製品処理報告書」に原因の明確化欄の追加必要(審査員は8.3と8.5の要求を混同、審査員の助言に従うと混乱したシステムになる)。
b)審査機関の回答
T社は審査機関にクレームを提示した。それに対して、審査機関から下記の回答がきた。
「確かに貴社のご指摘の通り、ISO9001:2000要求事項のShall+αの指摘事項があることは事実であります。担当審査員としましては、今後の貴社のシステム改善のためにという意図で審査をさせて頂きましたが、結果的には貴社のニーズに沿わない審査となりましたこと重ねてお詫び申し上げます。
弊機関としましては、日頃適合性審査のみでなく、付加価値のある審査を行い、受審組織の経営に寄与する審査を目指しております。結果として貴社のご希望に沿わないとのご指摘でありますので、貴社ご依頼に従い本審査は審査員を変更し実施させて頂きます。」
c)これに対するT社管理責任者の審査機関への返事
「『適合性審査のみでなく付加価値のある審査を』というのは、聞こえはいいですが、規格よりも審査機関や審査員の考え方に合ったシステムやマニュアル作りを強要され、企業にとってはかえってマイナスになる結果となります。審査員のトレーニングや能力はそのような『力量』を得るには不十分であり、今回の予備審査で強くそのことを実感しました。」
(2)V社(約80人)の維持審査の例
V社の管理責任者は、審査員が「折角時間とコストを掛けて審査をするのであれば、システムの改善に有益な内容であれば、気が付いた点を申し上げたいが如何でしょうか?」とあまり言うので、受け入れるのは会社側の判断であることを条件に、審査員の「付加価値」審査に同意した。審査員は次の指摘をした(カッコ内は企業側反論)。
@設計審査の項目はあらかじめ決めた確認項目を選択すべきである(審査員は設計検証と混同。設計審査は確認項目が分からないから、設計検証と違い、関連部門の参加が必要)。
A内部監査計画では、重点や領域を決めて行なうべきである(当社は中小企業なので、内部監査では、全部門、全ISO9001:2000項目の監査が可能で、理想的である)。
B力量にレベル管理が必要(レベルが必要な複雑な作業はないので管理上無駄である)。
結局、業務上、「マイナスの付加」となる助言で、審査員の力量不足がみられた。
(3)A社(約50人)の予備審査の例
予備審査に来た審査員は、審査開始の挨拶で、「ISO9000要求は最低要求だから、もっと、レベルの高い、改善されたシステムを確立して、企業の業績に貢献するようにすべきである。」と言った。勧告は次のような内容であった(カッコ内は企業側の反論)。
@6時間の社内訓練で内部監査の資格を与えているが、当審査機関の内部監査員2日コース参加が望ましい(小企業なので専門家育成の必要はない。審査機関の宣伝になっている)。
A品質マニュアルの現場配付がない(当社は事務所から現場まで、1、2分で行ける)。
B基準書に目次と各ページに連番タイトルがあるが、頁がない(連番タイトルで十分)。
C「是正処置報告書」に「効果確認欄」をつけたほうがよい(毎月生産するものと、年1回程度生産するものがあるので、当社の分けた様式のほうが管理の手間がかからない)。
結局、各論では、無駄な書類の「付加」とレベルの低いシステム「付加」の助言となった。
「付加価値審査」は、コンサルティングと審査の混同を起こしやすい。それは、アメリカのエンロン事件などで、監査そのものの信頼性を失ったことで経験済みのものである
4.世界的に拡大するトヨタ生産方式との対峙
多くの「付加価値のある助言」の共通点は、企業側には「マイナス付加助言」であることである。「真の付加価値ある助言」をするには、トヨタ生産方式をはじめ、経営工学などの実戦経験が不可欠であり、これがない審査員にそれを期待するのは力量的に酷であろう。
「ザ・トヨタウエイ」(ライカー氏著、日経BP社刊)では「ISO9000は、詳細なルール文書を作れば、ルール通り動くという考えを企業に信じさせてしまった。」とし、トヨタのジョージタウン工場の製造担当役員ドン・ジャクソン氏の体験談を紹介している。氏はアメリカ企業にいたとき、多くの書類を自信をもって作成したが、トヨタにきてその無駄を覚ったという。イギリスでトヨタ生産方式導入とともに「付加価値のある」ISO9000へと改善が行なわれた中小企業を見た。1社は管理規定を廃止し品質マニュアルだけとし、ISO9000の87年版の検査の独立性を排し、作業者に検査を兼任させ、品質を向上させた。もう1社は社長が「審査員がトヨタ生産方式に無関心なので、品質向上では話が合わない。」と言っていた。この社長はトラブルが出ても現場に行かず書類つくりに熱心なISO9000経験者の品質保証部長を3人も立て続けに解雇した。品質向上に効果的なトヨタ生産方式の三現主義と、それに基づく5Wによる真因追求を実行しなかったからである。
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