全部門の品質目標を規格は要求しているか?
(H17年3月4週号)

1.品質目標の要求の変遷
部門品質目標の問題を正確に理解するには、まず、次のようなISO9001規格の変遷を理解することが必要である。
(1)87年初版・4.1.1品質方針
「経営者は、品質に対する方針及び目標並びに品質についての責務(コミットメント)を明確にし、かつ、文書化する。」

この「責務」という訳語から、「経営者は品質についての最終的な責任を持つ」などというナンセンスな文章が多くのマニュアルに登場した(このホームページの「2000年版項目別分類」コーナーの「『責務』の意味:H12年5月第4週号」及び「Q・責務と責任との違い」参照)。2000年版で、責務の訳は廃止され、カタカナ英語になり、誤解はなくなった。

(2)94年版「4.1.1品質方針
「経営者は、品質方針を定め、文書にすること。品質方針には、品質に関する目標及び品質についての責務(コミットメント)を含むこと。」
(3)2000年版
下記のように、3つに分離され、品質目標の要求が独立し、明確になった。そして、コミットメントの訳であった「責務」は消え、カタカナ英語になった。
5.1 経営者のコミットメント
5.3 品質方針
5.4.1 品質目標
「トップマネジメントは、組織内のそれぞれの部門及び階層で品質目標が設定されていることを確実にすること。」

2.87年版と94年版の品質目標設定の問題点
規格があいまいなためか、次のようないろいろなやり方(代替案)が行われた。
(1)社長が全社目標を立て、これを全部門別に細かくし、最後は個人目標まで設定するというTQC型
(2)社長が全部門別に目標を立て、これを全社の各部門に指示。
(3)社長が関連する部門別に目標を立て、関連する部門に指示。
この場合、(1)、(2)では、経理総務など直接品質に関係ない部門までムリに品質目標を設定することが多かった。
規格の文章からすると(3)の案でも問題ないが、審査員がTQC型を好みやすいので、(1)、(2)を押し付けられることが多く、無意味な形ばかりになることが多かった。

3.2000年版の問題点
2000年版では「組織内のそれぞれの部門及び階層で品質目標が設定されていることを確実にすること。」となった。「確実にすること」となったので、94年版と異なり、社長が自ら設定しなくてもよくなった。
問題は「それぞれの部門及び階層」の意味である。これをそのまま、読むと「それぞれ」だから、全部門が対象になるという意味にもとれる。
これに対し、JABのホームページのワークショップの解説では、「推奨」として次のような趣旨の解説がある。
「94年版では、品質目標がトップから第一線作業者まで同じでものがあったり、製品品質に直接関係しない部門も形式的に目標設定したりする例があった。意味のある目標管理が望ましいとの考えから、部門、階層での目標設定にしたのが2000年改訂の趣旨である。

要するに、結論は、分かりやすく言えば、間接部門(設計部門は直接品質に関係する直接部門である)などや全従業員に対し、ムリに形だけの品質目標を作りなさんな、ということである。きわめて常識的である。

私は、94年版の最初のときから、意味のある目標達成のためには、ムリな形式化を嫌って、有効な目標が設定できない間接部門はムリに品質目標を立てないようにしてきた。それは企業に形式主義、官僚主義を持ち込まないためである。

4.和訳の問題
「それぞれの部門及び階層」の英語を見るとrelevant functions and levels であり、「それぞれ」の意味のeachがない。これを忠実に訳すと「関連する部門及び階層」である。英語では全部門の意味は全くない。英語によると間接部門のように「関連しない部門」は対象にならないことになる。

興味あることに、ISO14001:2004には環境目標の設定があり、これも、同じ英語のrelevant functions and levelsがある。英語はISO9001:2000と全く同じであるのに、ISO14001:2004の訳は「関連する部門及び階層」であり、ISO9001:2000の訳と異なる。ISO9001:2000は誤解されやすい訳である。
このために、誤解して、改訂の趣旨を理解せず、この「それぞれ」を大義名分にして総務経理部門まで、品質目標を強要する審査員も登場する。

ちなみに、ISO14001の初版の96年版は「関連する各部門及び階層」とあり、英語には「each relevant functions and levels」で「each」がある。だから、和訳にも「各」がある。
しかし、20004年版では、この「each」が削除され、和訳も「関連する部門及び階層」と「各」が削除された。こういう歴史的な背景があるので、ISO14001:2004では「それぞれ」の訳を避け、忠実な訳にしたのであろう。

なお、労働安全衛生のマネジメント規格であるOHSAS18001:1999は、ISO14001:1996をモデルにしているので、労働安全衛生目標に「each」が存在する。
ある企業で、OHSAS18001を取得したとき、本社設計部門も労働安全衛生目標を作っていた。設計部門は、製造と比較すると仕事に伴う怪我とか疾病はほとんど存在しない。それをムリして、労働安全衛生目標設定していた。設計部長はバカらしいと言っていた。
これも将来、改訂されるであろう。

5.個人目標管理のその後
富士通で問題になった個人レベルまでおろす目標管理や方針管理(このホームページの「審査/ コンサル体験談」コーナーの「目標管理とISO9001:2000:H16年9月4週号)は、最近の新聞報道によると富士通では改善され、グループ別になったという。
形式主義、官僚主義がたどった道である。