1.94年版までの設計に関する問題点
ISO9000シリーズの1994版までは、9001、9002、9003の3つの規格があり、選択となっていた。9001と9002の違いは、設計を含むかどうかの違いである。
ここで、特に問題になったのは、2つある。
1つは、9001と9002の選択を企業側が自由にできたことである。イギリスなどでは、ISO9000取得強制が産業界で強かったので、むずかしい9001を避け、設計行為があっても、楽な9002を選択して認証する企業が発生した。これでは、重要な設計行為がぬけるので、品質保証としては意味がなくなる。イギリスでは、設計事務所まで9002をとり、それで満足している例が発生した。
2つ目は、そもそも、規格の対象となる「設計とは何か」が重要な説明があいまいであった。用語定義にもなかった。
日本では、イギリスなどと逆で9001のほうが、格が高いということから、せっかく、ISO9000をとるなら、設計を含めてISO9001をとりたいということになった。そのとき、部品メーカーに設計行為があるかどうかが問題になった。
2.図面を描いていれば、設計行為である?
部品メーカーでは、顧客が製品設計をする。だから、純粋の製品設計行為がない。しかし、日本の部品メーカーでは、格の高い9001をとりたい。審査機関としては顧客である企業の要望に応えたい。そこで考えたのは、何か製品図面らしきものを書いていれば、設計行為があるという逃げ道である。
当時、プレス部品メーカーK社は、あるコンサルタントの指導を受けた。K社は顧客の図面で生産しているので、設計がない。だから、コンサルタントはK社の要望である9001取得に苦慮した。
ところが、たまたま、顧客の製造ラインから、ラインで使う台車の作成依頼が来た。これは、メモ図できたので、自動プレスにかけるため、CADで清書した。コンサルタントはこれを設計行為とした。しかし、K社は製品として台車を作る仕事をしているわけではない。つじつまを合わせるため、マニュアルの「プレス部品」の製品群に台車を追加した。もちろん、台車はこの偶然に製作依頼を受けた1台だけであった。
この企業は、このコンサルタントが無意味な文書を要求するので、私の指導に切り替えた。このため、後から私がこの無茶な設計解釈の実体を知ることになった。
さらに、後で、知ったことであるが、当時は、多くの部品メーカーはこのようなごまかしで9001を取得していた。人の考えることは似ている。
3.部品メーカーの工程設計に設計管理を適用して、ISO9001:1994取得推進
私は、「品質は工程で作られる」、「工程の良否は、工程設計の良否に大きく依存する」、「最初からよい工程設計をすることは不良品の予防になる」として、部品メーカーの設計行為を製品設計ではなく、工程設計に絞った。前記のK社も自動プレスのプログラム作成、工程条件の設定に設計管理を適用した。
ここで、問題になったのは、審査機関との解釈の相違であったが、規格のあいまいさと、他のガイドラインの解説やQS9000の解釈を援用して押し切り、工程設計で9001の取得に成功した。中には、工程設計も設計であるという解釈をした外資系のある大手審査機関があったので、この審査機関はよく使った。
こうして、94年版では、私の指導した部品メーカー群で、核の高い9001取得の要求があるときは工程設計に設計管理を適用し取得した。
4.2000年版での明確化
ISO9001:2000の改訂では、イギリスのように設計行為がある企業が、ごまかしで、設計管理を避けることができないように、9002や9003を廃止した。同時に設計の用語定義が作成された。この用語定義3.4.4の参考2.に工程設計が登場する。
問題は工程設計の扱いであった。これは、規格の「7.1 製品実現の計画」の参考2.で「組織は製品実現計画のプロセスの構築に当たって7.3に規定する要求事項を適用してよい。」とある。「製品実現計画のプロセスの構築」とは工程設計のことである。7.3とは設計・開発管理であるから、ISO9001:2000では、工程設計についてはshallとして7.3は適用されないという意味となった。すなわち、企業が適用するのは自由である。
これであいまいさはなくなった。すべて9001となったので、日本における格が低いというコンプレックスから開放された。
しかし、まだ、問題は残っている。例えば、プレス部品メーカーで、型を自社で作りプレス加工をしているが、型も別に作って売っている場合、型設計は、あるときには、工程設計の行為であり、あるときは、製品設計となる。全く、同じ行為なのに7.3が適用されたり、されなかったりする。
これは自作の工作機の場合も同じである。製品設計になったり、工程設計になったりする(このホームページの2000年版項目別コーナーの「7.3 設計・開発」の「プレス金型は、製品でない?:H12年3月1週号」参照)。
これは、工程設計を設計管理から除外した非合理性のためである。
5.ISO/TS16949の反抗・工程設計の巻き返し
QS9000は、最初、アメリカの自動車ビッグスリーの部品供給業者への規格としてスタートした。そこでは設計管理には、最初から、工程設計も含まれていた。厳しい品質を求められる自動車部品としては当然である。
ISO本部では、ISO9000シリーズと対抗してできたQS9000の位置づけを問題にして、結局、ワンランク下の技術仕様書(TS)に位置づけ、こうしてISO/TS16949が生まれた。
ISO/TS16949:2002の「1.2 適用」では、「製造工程設計は、除外を許可される対象にならない」して、工程設計に7.3をshallとして適用することを要求している。
さらに「7.3 設計開発」の参考では、「7.3の要求事項は、製品及び製造工程の設計・開発を含み、エラーの検出よりもエラーの予防に焦点を合わせる。」と、工程設計に7.3を適用する目的を明言している。
ある意味で、工程設計を軽視したISO9001:2000を「エラーを後から検出する主義だ」と批判しているような皮肉な言い方である。ISO9001:2000が検査重点主義といわれるのは、ここにもあるのだろう。
品質向上のために、製品設計と工程設計の密接な連携を強調しているISO/TS16949:2002や同時設計(CE:Concurrent
Engineering)は常識となっている時代である。
しかし、部品メーカーのISO9001:2000の審査にくる審査員で「付加価値審査」として「工程設計も設計管理を適用したらどうか」という助言は皆無であるようだ。
|