| 「8.5.3 予防処置」の扱いは、真面目な企業側の実務担当者を悩ませる。そして、審査員もよく理解できないので、企業側と言葉だけの不毛の神学論争の原因となりやすい。これを避けるためには、企業側は、きちんとした理論武装が必要である。以下がその理論武装のツールである。
1.予防処置の意味
予防処置は、「起こり得る不適合の原因除去」と定義されている。実は、この定義を論理的に理解することが、予防処置の問題の鍵をにぎる。以下、論理の筋道にそって説明する。
2.要求事項が明確だから不適合も明確である
不適合は、「要求事項を満たしていないこと」である。「要求事項」が先にある。例えば、製造業であれば、図面や仕様書に書いてある品質項目(寸法とその公差や材質など)である。明確である。「要求事項」は、7.2.1の「製品に関する要求事項の明確化」で要求されているように、明確化される。それを満たさないことだから、不適合も自動的に決まる。
3.「起こり得る不適合」は予測可能である
明確になった品質項目を満たしていないことが「不適合」であから、「起こり得る不適合」は予測可能である。
寸法が要求事項となっていれば、すべての寸法不良は「起こり得る不適合」である。例えば、品質要求事項が10項目あれば、10項目の「起こり得る不適合」がずばり確定し、11項目や12項目はない。
4.何故、「検出された不適合」が「起こり得る不適合」より少ないのか?
もし、確定した10項目の要求の「起こり得る不適合」の原因に対して、何も手を打たれず、そのまま放置され、市場で「検出した不適合」となって頻発していたら、企業は破滅である。しかし、通常はそうはならない。大量生産でも、同様である。新車のエンジントラブルが続出することはない。航空機は、めちゃめちゃに墜落しない。
なぜ、そうなるのか。それは、企業が次の例のように、製作前や使用前に日常業務として「起こり得る不適合」の原因を除去する処置をとっているからである。
@顧客の要求を明確化し、レビューする。それは、顧客の要求を誤解して、不適合品を作ることのないように、その原因除去(予防処置)をするためである。
A適切な資源を明確にして、提供する。それは、不適切な資源提供の原因除去(予防処置)をするためである。
B設計審査(レビュー)、設計検証、設計試作をする。それは設計段階で起こり得る不適合の原因除去(予防処置)をするためである。
C部品や工程に対して、製作にはいる前にFMEA(Failure Mode and Effect Analysis:
欠陥モードと効果分析)で不適合を予測し、その対応を分析する。それは、製作段階で不適合が発生しないように、「起こり得る不適合」の原因を除去するためである。
D材料、部品の供給先やアウトソース先の評価をし、選択する。それは、信頼できる品物やサービスの提供を受けることにより、不適合なものを購入しないための原因除去(予防処置)をするためである。
E測定機器の精度管理をする。それは、不適合品を良品と間違って判定し、顧客に渡ってから不適合が検出されないように、原因除去(予防処置)をするためである。
Fマネジメントレビューで、資源の必要性として、精度の高い機械を導入することを決定する。これは、顧客が今後、より精度の高いものを要求してくることに対応する、今後、起こり得る不適合の原因除去(予防処置)である。
このように、通常、企業は「起こり得る不適合」が明確なので、それに対応して、いろいろな予防処置をとっている。このため、あらゆる不適合が頻発しないのである。以上の予防処置は、ISO9001:2000の4.項から7.項でshallの必須基準(FMEAはISO/TS16949)として定められていることである。
逆に、不適合を検出したら、それは「起こり得る不適合」として、なんで、最初から予防処置ができなかったのか、疑問になるほどだ。
5.企業は何故、「起こり得る不適合」の原因が分かるのか?
それは、歴史的な失敗の経験の蓄積のためである。大きな意味で是正処置の一環である。最初、自動車はよく故障した。飛行機はよく事故を起こして墜落した。それが歴史的に改善を行ってきた。そして、それらは、予防処置として、技術体系や日業業務に取り込まれてきた。
6.何故、「8.5.3 予防処置」と上記の予防処置は別にあるのか?
ISO9001:2000では、上記のような各項目での予防処置に対して、わざわざ、「8.5.3 予防処置」を別に独立させた。だから、4.から7以外の予防処置の意味が分からなくなるのである。すなわち、「8.5.3 予防処置」に独立で属する「予防処置」のイメージが分かりにくい原因はここにある。PDCAサイクルでは、予防処置はPの問題であり、Doが行われた後のAの問題ではないはずである。
そこで、ムリに月次不良統計の分析から予防処置をつなげるという逃げが生まれる。しかし、不良統計は、「検出した不適合」の集計に過ぎない。だから、これから出る処置は本来、是正処置である。
私は、「水平展開」「横展開」を予防処置に含めている。そのために、不適合を「ある品番のある不適合」という社内定義をわざわざ、前提として設定する。こうしておけば、品番Aで起きた不適合Yが、品番Bで起きていなければ、品番BではYは「起こり得る不適合」になるからである。
多くの企業は多品種である。「水平展開」「横展開」を是正処置として矮小化するより、「検出された不適合の「真因」から、積極的に予防処置に展開するほうが品質向上につながる。 |